第25話 豪商と傭兵。そして美女
黒猫が飛び立ってすぐ、ベルナールドは自分の隣で腕を組み、楽し気な笑みを浮かべている会長、エミリオス・アニノスへと早速と言わんばかりに話しかけた。
「会長。よろしかったんですか?」
「いいではないか、彼は一人の共を連れ海賊の討伐へ向かっただけだ。俺達はそのまま港を目指すのみ、彼がもし失敗したとして、俺に、俺達に損は発生しないだろ?」
違うか?、と言うエミリオスにベルナールドはそれに同意し首を縦に振る。
「……それはもちろん。あれは元々は彼が提案した事、彼が死んでもそれは彼の責任です」
至極最もで、他人事な意見だ。
だが、ベルナールドの表情にはやはり憂いがある。もしかすれば、ベルナールドは本当は黒猫を止めたかったのかもしれない。
そして、彼を死地へと向かわせたのではと、その責任感からか思っているのやも知れなかった。
「そうだな、だが俺には彼が失敗する未来など想像出来んな。いや、むしろ我々が港に着いてすぐにヒョッコリ海賊共を捉えて戻ってくる未来しか見ないな」
目線を下にしているベルナールドに、エミリオスは自信満々にそう本心から来る言葉を告げた。
そして、ベルナールドが思わず視線をエミリオスへとやり、口を開く前に更に言葉を続ける。
「なぁ、ベルナールド君。彼の使役している魔獣の名を知っているかね。地上でならば敵なしと謳われる君なら知っているのではないか?」
「あの魔獣ですか。いえ存じません、ですが強さならば大まかに。あの気配、風格は上位者のそれです。いくら低く見積もろうとAは越すのではないかと……」
「そうだ、かの魔獣が居れば彼の生還は間違いないだろうて」
「……えぇ」
ベルナールドは素直に感じたアトスへの評価を雇い主に話した。
彼の口から当たり前のように出たランクAという単語、それが表すのは即ちアトス単騎で町を破壊する事が可能となる災害級の魔獣という事だ。
つまり、それを使役する黒猫は……
「……彼とは仲良くやりたいものだな」
その目的は黒猫の持つ力が目当てか。それとも黒猫がこれから成す事への興味からか…………。
「……ですが、やはり危険では?」
だが、ベルナールは危惧していた。黒猫と名乗った男の使役する魔獣の脅威を感じ取り、雇い主を守るという使命感の元、自分なりに考えた故の発言なのだろう。
だが、それをエミリオスは豪快に笑い飛ばした。
「はーはははは!!…………否!俺の
「……そうですか、なら俺は何も言う事はありません……ですが、しかし俺はなぜ強さを重要視する魔獣がシャルルに従っているのか不思議です。確かに彼のカリスマや気品は王族と言われても信じてしまう程ですが…………」
「なら、彼にかの魔獣が従うだけの何かを持っているという事に他ならないという事だ。何、間違いなく彼は
エミリオス会長はそう言ってベルナールドの肩を叩き、他の船員に消化の状況を聞く。
そして、安全が確認されると悠々と船内に戻っていくのだった。
ーーーーーーーーー
一方その頃、海賊船の船長室。では一人の男が滴るほどの汗を流し頭を抱えていた。
男の名はサミー、この海賊船団を引きいる長だ。彼が手にしているのは今回の襲撃失敗により、捕えられた団員。武器や防具の損失などが大まかに書き記されている紙だ。
「損失は捕えられた奴らを合わせて41……か。雇った元傭兵共も一人として帰っこ来ず、それに対し向こうはまだエミリオスの野郎も船もピンピンしていやがる。ド畜生が!大損害じゃねぇかよ!」
サミーは怒鳴りながら卓上の物を薙ぎ払うと、棚から酒瓶を取り出す。
そしてそのままグラスに注ぐことなくラッパ飲みし、空になった瓶を強く壁にぶつけ叩き割る。
彼がエミリオスの船団を襲ったのはお得意先であった、とある商会の依頼だった。
内容はエミリオスの抹殺。理由は彼の商会に市場での競走で破れ故の恨みからくるものだった。
多額の金、身を崩したB-ランクとCランクの元傭兵10名を渡されたサリーは二つ返事でそれを了承したのだが、それはこうして惨敗に終わった。
彼は確実にエミリオスを殺す為に火を放ち、他の船を抑えてエミリオスのいる船へと元傭兵達を送り込んだ。
だが、エミリオスの船にはとんだ化け物が2人もいたのだ。
「だいたい!なんだ、あの外套の奴と白髪の大男は!元ランクB-とランクCの傭兵を倒せる奴を雇ってたとか聞いてねぇぞ!」
エミリオスを倒すどころか主戦力はベルナールドに抑えられ、残りをクロエや他の船員が倒していたった。
そして運が悪い事に謎の黒服の男が加勢に現れ、残党を次々と撃破していったのだ。
それにより作戦は崩壊し、撤退した。
人員と後ろ盾を失った事実に目を背けたくなるが、打開策を練らねばと椅子に腰掛けた瞬間だった。
部屋の扉が勢い良く開け放たれた。
「せ、船長!大変です!」
「なんだ!こっちも大変なんだよ!!」
急に入ってきた船員に苛立ち怒鳴るサミー。だが、船員も慌てているらしく、船長の様子にビビりながらも言葉を続けた。
「そ、空から人が降ってきました!!」
「はぁぁぁ!!!!」
船長サミー。齢は五十後半へと差し掛かるこの髭のオッサンは、人生で一番の山場へとぶつかるのだった。
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