第23話 黒猫と海賊戦②


 時間は少し遡り、黒猫視点


 吾輩今、船団の上空をアトスに跨り旋回していた。なぜ、さっさと降りないのかと言えば観察と戦闘の準備である。


 準備を怠るのはただの愚か者だ。そして、観察の理由はかの有名な孫子の言葉である『敵を知り己を知れ百戦危うからず』に習っての行動からである。先人の知恵とはかくも偉大なものだ。


 吾輩はアタッシュケースから小さな巾着袋を取り出すと、それに魔力を込めた。

 袋の中に入っているのはただの木の実であり、もちろん食べることは出来ない。


 では、なぜ今取り出したのかと言えばこれは戦闘に置いて有用であるからに他ならないからだ。


 吾輩は魔力を込め終わると、その袋の中身を取り出しそれを船団へと向かってばら撒いた。


 こうしてある程度の準備を手早く済ませた吾輩は男体化し、アトスの背中に立ち上がる。


「ではアトスよ、吾輩が先程おしえた合図を出せばその通りに動けよ」

『了解した』

「宜しい。では行ってくる」


 そうして吾輩は高さ30m以上から颯爽と飛び降りたのだった。


 ーーーーーーーー


 そして、現在。落下途中で危機に迫っていた外套姿の女性を発見し着地と同時に助けた所から始まる。


 女性、というのはそのシルエットでなんとか分かる。だが、それ以外の事、例えば年齢や顔などはフードを深く被っておりわからない。


 ただ分かるのは彼女が武芸者であり、それと同時に魔術を使えるという事だ。


 杖を使った武術は前世にも存在したが、この様な男として唆られるモノを見ると気分が高揚せざるおえない。 やはり、武術とは素晴らしく格好良いものだ。


 しかし、魔術とは初めて見た。やはり能力とカテゴリーが分別されているということはや法則が違うのだろうか?


 何にしても彼女の動きは滑らかで美しさすら感じるほど。そして、時折見せる風の魔術は物語ほどド派手ではないが、見栄えもよく、吾輩も使ってみたいと思えた。


 だが、残念ながら今は見惚れている暇はない。


 吾輩は海賊をある程度蹴散らすと、吾輩の背中を守ってくれている女性、クロエ殿に声をかけた。


「クロエ殿、一つ聞くがもし海賊船をすぐさま沈められるとすれば、それは沈めても良いものなのかね?」

「えっ!あの……その……」


 吾輩の質問にクロエはわかりやすく戸惑っている。

 いや、確かに吾輩も突如として上空から謎の黒衣の男が現れて、加勢したかと思えば船を沈めて良いのか?と聞いてくるこの謎の状況。


 それに対し混乱するなと言えば、酷なのだろう。まぁ、致し方なし。要は海賊を殺した方が得なのか殺さない方が得なのか。それを知りたいだけなのだ。


 もう少し噛み砕きわかりやすい質問をするとしよう


「では、聞き方を変える。あの海賊達を討伐する事によって賞金は出るか?」

「…………えっ?えっと、そのこの辺りの海賊の事は分かりませんが3隻もの船におおよそ約100人近い船員です。これでけ大規模な海賊なら船長には賞金はかかっていると思われます」


 そうか、それは良い事を聞いた。だとすれば、生け捕りが望ましいのやもしれん。

 確かに殺しても報奨は出よう。例えば首などの証拠を持ってくれば誰もが納得する。


 だが、残念ながら船内にいたのか上空からは船長の姿は確認出来ていなかったのだ。下手に沈めて証拠なしとなったら色々と困まる。ここは船長を捕らえるを最優先とし、無理となれば早々に殺すか逃げるとしよう。


 海賊側と見られる船3隻の中には確かに船長が乗っていると思わしき大型船はあったのでそこにいるはずだ。

 余っ程血の気のある馬鹿か腕の立つ者でなければ船長自ら乱戦真っ只中の商船に乗り込む事は無いだろう。


 しかし、かなり煙たいな、相手の船に火をつけるとは。


 基本要求を伝え、それで断ってきたら皆殺しという事なのか?


 だとすればとんだ黒髭手法である。


「りやぁぁ!!」


 すると、頭の隅で考え事をしていた吾輩に一人の海賊が槍を突いてきた。この乱戦の中長物を扱うとは、やはり馬鹿なのだろうか?


「ぬるい!」


 吾輩は向かってくる穂先を斜めに構えた軍刀の腹に当て、受け流し、勢い余って向かってくる海賊の腹へと蹴りを入れた。海賊は腹を抱える事すらできず血反吐を吐いて気絶し甲板に倒れる。


 しかし、だ。先程から気になる事があるのだが、吾輩の動きが島にいた時よりも明らかに動きが鈍いのだ。

 体感ゆえに曖昧だがで一、二割ほど身体能力が落ちている気がする。


 今のところ海賊が弱いのか、全くと言っていいほどハンデになっていないのが救いだろう。なぜ吾輩の身体能力が落ちているのか。これは後で詳しく調べる必要がありそうだ。


 吾輩はそこまでて一旦思考をとめ海賊狩りへと専念する。

 吾輩が島でアトスと相手に培った戦闘技術は恐ろしい程に活躍し、戦果を挙げてゆくのだった。

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