黒猫と森の住人達

第4話 ゴブリンと漆黒の麗人


混合林。温帯の気候から広葉樹と針葉樹が混じってできたこの森に、紫色の肌を持つやつれた4体のゴブリン達が獲物を探しに練り歩いていた。


 錆びつき古びた片手剣。その辺りでとれた枝の先にナイフを括りつけただけの簡素な槍。弦の緩んだ弓など。

 そのゴブリン達の武器はお世辞にも良いとは言えなかった。先日、黒猫が闘ったゴブリン達とは明らかに掛け離れている。


 しかし、それには理由がある。彼等はこの森に住むゴブリンであるが、そのゴブリンの中にも部族というのが存在する。


 この森のゴブリンは四つの部族が存在している。

 最も高位の深紅の肌を持つ紅族こうぞく、それに次ぐ地位の藤黄の肌を持つ黄族おうぞく、紅族と黄族に仕える緑の肌を持つ翠族すいぞく


そして、そのさらに下、紫の肌を持つ紫族しぞくだ。


 彼ら紫族はどの部族からも激しい嫌悪を向けられる迫害された部族だ。故に勢力は弱く、明日食う飯にすら困っている日々を送っている。今日も今日とてゴブリン達は獲物を見つけるべく、血眼になりながら周囲を見渡し奥へ奥へと突き進む。


 そして、しばらくした時だった。先頭を歩いていたゴブリンが急に立ち止まったのだ。あまりに突然な事にその後ろを歩いていたゴブリンは対応出来ず、その背中にぶつかる。



「っ!…………ギ、ギギ?」



 どうした?そう声をかけると立ち止まったゴブリンは全身から汗を流し喘ぐように呟いた。


「……ギ……ギン……」


 …………人間と。彼等の目の前、そこに居たのは軍帽を深く被り、軍服の上にコートを肩にかけた黒髪の青と赤のオッドアイのだった。

 彼女は無表情にゴブリン達を眺めながら、胸ポケットから煙草を一本取り出し火をつけ吸い始める。


 はぁー。と吐息と共にに広がる煙草の煙とは思えない程フローラルな香り

 そして、煙草を口に咥えたまま彼女は固まって動けないゴブリン達へと問いかける。


「……やぁ、初めましてゴブリン諸君。しかし、その紫色の肌は初めて見るな。武器も武器というのも烏滸がましい程劣悪だが……それで吾輩とやり合うかね?」


 凛々しく気品のありながらも軍人の様に厳格な声。

 100人が彼女を王族か?と問われたら全員が首を縦に振りそうな程彼女の姿は美しく身振り手振りは堂に入っていた。


 …………勝てない。ゴブリン達は瞬時にそう思い知る。何故ならば彼等は虐げられてきた者達だ。虐げられてきた者達故に力量を見破る力があり、彼女の事は自分たちの手に負えない相手だと認識した。


 ゴブリン達はすぐさま武器を放棄し、土下座に近い五体投地のポーズで地に伏せる。

 紛うこと無き命乞いである。彼等は生きる事に必死なのだ。

 そして、彼女はそれをただ煙草の煙を吹きながらその美しい目でじっと見つめてるだけだった。



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