最初の半年間は家賃免除

 ニートや無職が無理やり結婚させられる法律ができて、ある日突然、結婚させられてしまった私たち。

 夫のレンは、なんだか頼りない感じ。何を話しかけても「ああ~」とか「う~ん」とか気のない返事ばかり。先行き不安になっちゃいます。

 でも、いくつかいいこともありました。


 たとえば、お金のこと。

 私たちが住んでいるのは、地方都市の端っこにある一軒家。家賃は月額6万円。築50年以上たっているので、一軒家ながらこの金額なのです。しかも、20年ほど前にリフォームされているので、台所やお風呂はトイレはそれなりにきれいです。

 さらに、最初の半年間は家賃を国が負担してくれるです。それが過ぎると全部自分たちで支払わなければならなくなります。ふたりで働けば、月に3万円ずつ。それくらいならば、どうにかなりそう。

 もちろん、食費も必要です。料理は自分たちで作るとしても、材料は買ってこないといけません。ただし、これも最初は国から支給されます。いきなり元ニートが自立なんて大変ですものね。

 その他に、光熱費や通信費もかかります。電気とか水道とかガスとか、あとスマートフォンやインターネットの料金ですね。


 そして、今、私の手元には30万円があります。

 結婚のご祝儀として、国から銀行の口座に振り込まれたものです。

 しばらくの間、食費と家賃の心配はないとしても、それ以外にかかるお金は当面の間この30万円でしのがなければいけません。電気代やガス代もここから引き落とされていきます。

「とりあえず、買い物に行きましょうよ。包丁とかおなべとか、シャンプーやせっけんも必要だし。あ、トイレットペーパーやティッシュペーパーも買ってこないと!」

 夫のレンにそう提案すると、珍しくレンがまともに口を開きました。

「テレビ」

「え?」と、言葉の意味がわからなかった私は聞き返します。

「テレビ!」

「は?」と、また声を上げる私。

「テレビが欲しい!」

「テレビ?」

「まずはテレビがないと!でないと生きていけない!」

 なんと、レンは身の回りの生活用品がととのわない内から、特に生活に必要もないテレビが欲しいと言い始めたのです。

 さすが元ニート。完全にニートの発想です。

「え?でも、そういうのはもっとお金にゆとりが出てきてからでないと。ちゃんとお仕事を始めて、お給料も入って、それからでしょう?普通」と、私が説得しても聞こうとはしません。

「駄目だ!テレビがないと生きてはいけない!それと、ゲーム!ゲーム機を買おう!」

「いや、無理でしょ!たった30万円しかないのよ!」

「なに言ってんだ。30万円もあるじゃないか!今使わなくて、いつ使うんだ!」

「無理!無理!無理!絶対無理よ!」

 こうして、私たちはさっそく夫婦ゲンカを始めたのでした。


 しばらくの激論ののち、結局、中古の液晶テレビを1台だけ購入することに決まりました。それでも1万5000円もしたのですが。30万円の内1万5000円なので、いきなり手持ちのお金の5パーセントが吹っ飛んでいったことになります。

 これが夫婦生活、最初に購入した物です。

「ほんとは、もっといいヤツが欲しかったんだけどな」と、レンはまだブツクサ言っていますが、どうしようもありません。

「ちゃんとまともに金が入ってくるようになったら、新しいのに買い替えましょうね」と言いながら、私はこんな境遇を楽しんでいる自分に気がつきました。

 だって、なんだかゲームみたいじゃないですか?最初は中古の商品とか安物で済ませておいて、段々ステップアップしていくだなんて。一番最初は、安い武器や防具を購入して、ちょっとずつ高くていいものに買い替えていく。時には、ダンジョンの中で伝説の武器を手に入れたりして。

 そう考えると、ワクワクしてきます。


 その後も、そんな感じで進んでいきました。

 私が「節約しよう」と言うと、レンは「あれが買いたい!これが買いたい!」とすぐに贅沢ぜいたくをしようとするのです。食事だってそう。せっかく国から食材が送られてくるのに、自分で料理せずに外に食べに行きたがるのです。

 そのたびにまたケンカになります。


 そんなこんなで、どうにかこうにか基本的な生活のスタイルが整ってくると、最大の問題にぶち当たりました。そう、就職です。お仕事を始めないと!

 私たちは2人とも、これまで一度も働いた経験がなかったので、これには本当に困りました。

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