第35話 人間ごっこ 1-12
そうして今現在このような状態になっている訳だ。
カレンの体調は既に回復しており、冒険者ギルドの受付嬢の仕事に戻っても大丈夫なはずなのだが、この
今日もいつものように子供達の相手をしてくれている。
ゼロもまたいつものように——最近生活が更にパターン化してきている——ダンジョンへ向かうために支度をする。
ダンジョンへ潜る目的は、モンスターと呼ばれる生命体の調査研究や、それに準ずる物質の発見及び入手をすること。
副産物として報酬が得られるが、最近はこれらを使うことはなく全て貯金している。
この街のダンジョンを一通り調べ尽くしたら、王都へ向かうつもりなのだが、貯めている資金はそこで使うつもりなのだ。
聞いた話では"魔導書"なる物や質の良いマジックアイテムの類が集められているのだとか。
どれ程の値がするのかはわからないため、今のうちに集められるだけ集めているのだ。
ダンジョン探索についてだが、かなり深部まで進むことができている。
最近では"黒狼"と呼ばれるモンスターを狩りながら進んでいる。
そして得た素材の内、必要の無い数を冒険者ギルドに納品するのだが、またここで余計なことに巻き込まれてしまった。
結果から話すと、大勢の冒険者からパーティー依頼が殺到したのだ。
黒狼は一頭でランクはCであり、このモンスターは群れて行動するため群れている数にもよるが、たいていの場合、パーティーでランクC+からBになるらしい。
中堅以上の冒険者パーティーが複数集まって狩る相手をしなければ、たいていの場合必ず死人が出るとまで言われている凶悪なモンスターなのだ。
このモンスターはたいてい4体から5体で群れて行動するのだが、何故ここまで冒険者達が苦戦するのかといえば、——"冒険者の質"という面を考慮せずにその答えを出すのならば——それはダンジョンとモンスターの性質の相性の良さにある。
黒狼が出没する階層は「闇を纏った樹海」と表現されるエリアであり、力量のある冒険者達でさえ近寄りたがらない場所なのだ。
森であるため"道"という概念が無く、360度自由に進めるというメリットがある反面、多勢の敵に囲まれ易く、また森全体が暗く常時霧がかかっているため視界が悪く、迷い易いのだ。
空間の情報の多くを視界から得ている人間には、とても行動しにくいエリアということになる。
そしてこの黒狼だが、額に一つ大きな目があるのだが、黒狼の視力はほとんど無いに等しい。
結論から言うと、黒狼の目は光を捉えるものではなく、魔力を捉えているのだ。
ゼロは初めて黒狼と接触した時、黒狼に全く感知されなかったことから、「光ではない何か別のものを捉えるための目なのだろう」と抽象的ではあるが大方的を得ている結論を出している。
ゼロには魔力というものが無いために、黒狼から感知されなかったのだ。
この特性は研究の触媒になると考えたゼロは、狩れる分だけ黒狼を狩っていき過分を納品した。
その結果がこれだ。
黒狼は大金になるのだ。
その黒く光沢のある美しい毛皮は、貴族達の間で家具やドレスなどに使われる高級品であり、毛皮同様に黒く光沢のある爪は、爪自体が微弱ではあるが毒を含んでおり、武具などの装飾に使われる。
眼球については、魔力を捉えることができることは知られていないようだ。
冒険者ギルドに納品した数はほんの少しだが、確かにスケルトンやゴブリンに比べれば十数倍の金額になった。
今までゼロに恐怖を抱いていた冒険者や、無関心だった冒険者も現金なもので、ゼロをパーティーに誘う者の数は日に日に増えていった。
それはある意味でしょうがないことだったのだ。
黒狼を狩ることができれば大金は入るが、それ以上に、黒狼の素材を扱う商人とのコネクションを得ることができ、上手くいけば貴族とのコネクションまで得ることができるのだ。
それは本来の実力など関係無く、簡単に上級者という名の、暇で安全で高賃金な守衛をする仕事に就けるのだ。
必死にもなるだろう。
それらに対するゼロの返答は当たり前だがNOだ。
信頼信用のできない者と共に行動することなどできない。
最近では、朝から冒険者ギルドでパーティー勧誘の話を持ち込んでくる冒険者が増えたため、今日は冒険者ギルドに顔を出さずに直接ダンジョンに向かうことにする。
ゼロが持ち物などの確認を行っていると、
パーティー勧誘の対処について考えていたゼロは、一瞬冒険者がここまで押しかけてきたのかと考えたが、どうやら馬車のようだ。
しかもその馬車には見覚えがある。
ゼロはその馬車を攻撃させずに通す。
数分後、家の中を走る音が聞こえてくる。
その音はゼロのいる部屋の扉の前で止まると、扉を開けその小さな姿を覗かせる。
「ゼロさまーうまー!」
「お客かな?」
「そー?」
「ダメじゃないレイチェル、扉を開ける時はちゃんとノックしなきゃ」
「あ、ごめんなさい......」
「次から気をつけてくれれば大丈夫だ。知らせてくれてありがとう、レイチェル」
「えへへ〜」
「ゼロ様、えっと」
「ああ、私が話をするからその間みんなのことを頼む」
「わかりました」
(宝石の話か?手持ちはあれだけだと話してあるんだがな......いや、時期的にあの事件のことだろう......厄介だな)
カレンに子供達を任せ、ゼロは家の前に馬車を停めこちらに歩いてくる人物と話をするために玄関へ向かった。
ゼロが外に出た時、馬車の前で綺麗なお辞儀を披露したのは、以前ゼロの送り迎えを担当していた執事ではなく、レドモンドというノルンの側近的な立場にいる執事長だった。
ゼロはこのことに対し、自分に対するノルンの信用度ないしは重要度が上がったのではないか、と予想を立てる。
だが、それには"危険性"というものもまた含まれている可能性があることも考えなくてはいけない。
これについてはまだ定かではないが、もし仮に冒険者ギルドでのいざこざのことを認知しており、かつその時ゼロが使った
ゼロはレドモンドをしっかりと見据え、話を聞くために近づいていく。
ゼロの存在に気付いたレドモンドは、その年季の入った顔の表情を変えずに優雅に一礼する。
「ゼロ様。ノルン様がゼロ様にお会いしたいと仰っております」
(......何かを設けることもなく、ただ「お会いしたい」か......。これは"焦り"とみるべきなのだろうか。やはり
「それはどのようなご用件でしょうか?」
「......私めはただゼロ様を呼んでくるよう仰せつかりました故、ゼロ様が満足なさるような回答は持ち合わせておりませぬ。どうかご容赦を」
老執事は顔色一つ変えずに淡々と言葉を述べる。
「......そうですか、ですが此方にも用事がありまして」
「......そう申されましても......どうにかなりませんか?」
「せめてご用件がわかればいいのですが」
「......」
老執事は少しの間黙り込み、そして一瞬ゼロの顔を見て——と言ってもヘルムを被っているので表情を見ることはできないのだが——そして口を開く。
「実は——」
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