第31話 人間ごっこ 1-8
ポルガトーレの領主であるノルンとの会談は、あまり有益なものではなかった。
最初から最後まで勧誘の嵐だった。
要は「専属の商人になれ」ということだ。
別になっても良かったが、要求された仕事内容が商人の域を遥かに超えていた。
"兵や冒険者の育成"を頼まれたのだ。
こんなの商人の仕事じゃない。
それに訓練に時間を取られたら子供達に当てる時間やダンジョン探索の時間がなくなる。
この時点で却下だ。
唯一有益だったのが、商売権というものを入手できたことだ。
これでこの街で——常識の範囲内で——商売ができる。
贈呈したあのルビーとダイヤのネックレスが効いたのだろう。
箱を開けた時のあの顔はなかなか見ていて面白いものだった。
この世界には宝石というものはあまり種類がないようで、
ゼロはこの世界では"パース"という
この世界には、硬すぎる魔石を上手く研磨する技術はないようで、アクセサリーとして使用されることはあまりないらしい。
またダンジョンで簡単に入手できることから、希少性の面でパースに劣るため、見栄を張りたがる貴族には尚更需要がないのだとか。
そのためこの世界の貴族には、"宝石"というものを"身につける"という考え方があまりなかった。
故にゼロが贈呈したネックレスは、ノルンに大きな衝撃を与えた。
そのネックレスを収めるためだけに作られた精巧な木箱の中で、どの角度から見ても光り輝く石達。
それらの石達を繋ぎ合わせ、ネックレスとして完成させている金属もまた精巧な意匠が凝らされており、それを見る者を魅了する。
そのネックレスを手に持った時もまたノルンに衝撃を与えた。
とても軽いのだ。
金属を使っているためそれなりに重そうだ、と予想していたのだが全く違った。
宝石は一つ一つそれなりに重さがあるが、金属の部分はとても軽かった。
貴族としてあるノルンは、「その地位に相応しくあれ」と両親の言葉より様々な美術品を集めてきたが、ノルンはそれらに全く興味がなく、ただ"貴族として"——他の貴族に力を示すために——美術品を集めていた。
なの有名な職人の作品を集め、王都などで流行っているものを集め、集めて飾って集めて飾って集めて飾っての繰り返し。
はっきり言って金の浪費でしかない。
そうノルンは考えていた。
しかしそのネックレスを、その宝石を見た瞬間、ノルンはその宝石達に魅了された。
ゼロに渡されたそれを見た時、貴族として醜態を晒すことなどあってはならないことであり、驚きにより顔が引きつりそうになるのを必死に堪えていた。
その顔を見られることなく——本人はそう思っている——ゼロが帰った後、ノルンは一人自室でそのネックレスを眺め充分楽しんだ後、それを身につけた自分を鏡で見て楽しんだ。
その楽しそうな笑顔は、まだ幼かった——貴族や政治などという柵に囚われることのなかった——頃の、一人の少女のような、とても明るく眩しい笑顔だった。
•••••
意外と早くことが終わったゼロは、帰り道がてら次の階層の情報でも貰っておこうと冒険者ギルドのある方向へ歩いて行った。
ん?なんだか騒がしいな。
なにやら冒険者ギルドに人が群がっている。
その群衆が冒険者ならば「いつものことだ」で済ませられそうだが、そこには冒険者ではない一般人もいた。
群がっている人々の顔は、唖然としている者、泣いている者、悔しそうに目を強く瞑っている者など様々だ。
何かあったのだろうか。
ゼロがその場所に近づいていく。
人が群がっていてギルド内に入れそうにない。
そこで近くにいた、周りの人たちと同様に唖然とした顔をしている一般人と思われる男性に話しかける。
「これは、どうしたのですか?」
「......」
男性は答えない。
いや、気付いていないか、自分が話しかけられたとは思っていないような感じだ。
ゼロが男性の肩を掴んで再び問う。
「あの、何かあったのですか?」
「!......」
男性はゼロに気付いたが、とても口に力が入っているようでなかなか話そうとしない。
仕方ないので別の人に話しかけることにした。
今度は冒険者風の格好をしたたくましい体躯の男性だ。
男性はゼロと一般人の男性とのやり取りを聞いていたらしく、ゼロが問い掛ける前に状況を説明してくれた。
その内容はとても衝撃的なものだった。
「......カレンさんが......殺されたんだ......」
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