第21話 ダンジョン 1-10

第二階層に降りるまでに計6パーティーと戦闘が起こり、その全てをゼロが殲滅した。

そのためゼロのマントは——色が黒のためあまり目立たないが——ゴブリンの血でベトベトになっていて気持ち悪い。

そして現在、ゼロとメネアは第二階層の通路を歩いている。

まずは第三階層に降りるための階段を見つけなければいけない。

すでにわかっていることだが、この広すぎる階層で階段を見つけるのは至難の業であり、当然見つけるまでにモンスターと出くわすわけだ。

カタカタカタカタ。

懐かしい——まだ1日しか経っていないが——音色が聞こえてきた。

レーダーですでに確認済みだが、今回はいかんせん数が多いようで、2パーティー分のスケルトンを発見した。

マゴリアを構える。

10体のスケルトン。通常より多いが簡単に倒せるし血が出ないのが良い。ゴブリンよりもずっと楽だ。

メネアにここから動くなと念を押し、まだ此方に気づいていないスケルトン達に一気に畳み掛ける。

パーティーから少し離れたところにいる逸れスケルトンを狙う。

マゴリアの先端を自分の身体で隠し、メネアからは見えないようにする。

逸れスケルトンに先制攻撃を仕掛ける瞬間、大気震動発生装置スフィアを威力を抑えて発動させる。

瞬間、スケルトンが砕け散った。

仲間がやられた事に気付いた他のスケルトン達が此方を向き一斉に襲いかかってくる。

そうだ!......こっちへ来い!

ゼロはその場から動かず、スケルトン達がマゴリアの届く範囲に入ってくるのをじっと待つ。

そして1番早くゼロの位置までたどり着いたスケルトンが攻撃圏内に入った瞬間——

ヴヴヴゥゥゥン。大気震動発生装置スフィアを発動させながらなぎ払う。

数体のスケルトンが周囲に散らばる。

それに構わず残りのスケルトン達が間合いを詰めて来て、他のスケルトン同様に周囲に散らばる。

単純作業だ。実に楽な仕事だな。ただマゴリアを振っていれば良いなんて。

10体全てのスケルトンを倒し終えた。

ゼロの周囲には骨と紫色の魔石が散らばっている。ちなみに今回は加減したため魔石を傷つけることはなかった。


「ゼロさーん」


メネアが走って近づいてくる。

そしてまた息切れを起こす。


「ハァ......ハァ......す、凄いで——」

「あぁ、わかったから、呼吸を整えろ」


ゼロは足元に落ちている魔石を一つ拾う。

魔石。薄暗い紫色の妖しい光を放つその結晶体は、現在輸送艦カルツァーで最優先で研究されており、ゼロが今最も関心を向けている物だ。

魔石は研究のサンプルとして使っているが、ただの結晶体、つまり宝石としてアクセサリーなどの装飾品としても使えるだろうに、何故誰も使わないのだろうと疑問に思った。

それはこの世界の者たちに魔石を研磨する技術がないからだ。魔石は削るには硬すぎるのだ。

硬いが脆いという性質のため大気震動発生装置スフィアの震動に耐えられなかったわけだ。

魔石を原石——角が立っており結構危ない——として飾ることもできるが、それならば簡単に形を変えられるパースのようが良いと、パースの方が装飾品としての需要が高くなっている。

かといって魔石に需要が無いわけではない。事実冒険者ギルドは魔石を冒険者から買い取り、それを必要とする職人や帝国へ輸出している。何故帝国が魔石を輸入しているかは今回は触れないでおく。


「そういえば、メネアはどの階層まで潜ったことがあるんだ?」

「冒険者の方のお供としてですが、第三階層までです」


メネアが魔石を拾いながら話す。


「そうか、第三階層までの道はわかるか?」

「えーっと、それでしたらあっちの方です。まっすぐ行って左左右右です!」

「......詳しいんだな......」

「ま、まぁ、こうでもしないと、何処で狙われるかわかりませんから。はい」

「あぁ、すまんな......冒険者か?」


手に持っていた魔石をメネアに渡す。


「冒険者はダンジョン内ではあまりないです。注意するのは盗賊の方です」

「ダンジョンに盗賊が出るのか?」

「はい。噂ですけど、ダンジョン内にアジトがあるんだとか」

「なるほど......まぁこれだけ広ければ見つかりにくい、のか」


というかダンジョン内に居るなら軍を動かして殲滅すれば良かろうに。


「じゃあ第三階層に案内してくれ」

「はい!」


•••••


メネアの案内のもと第三階層へ行く階段まで来た。

階段があったのはセーフゾーンと呼ばれる謎の安全地帯だった。

ゼロはメネアを休ませるために少しの間休憩時間を取っている。

現在メネアはゼロによって足をマッサージされていた。


「ふぎゅ!ん!ちょ、まった......」

「疲労が溜まりすぎだ。ちゃんと解さないといずれ動くたびに痛みを伴うようになるぞ」

「でもちょっと、まって......い、いーたいいたいいたいいたい!」

「力を抜け、じゃないと痛いままだぞ......(全く、私が人のマッサージをするなどそうそうないことだぞ。あいつらが見たら発狂ものだな)」


あいつらとは、世界エデンの百人貴族の一部に、ゼロ主人に狂信的なまでの忠誠心を持つ者達の事だ。

そしてメネアの悲鳴がセーフゾーンで響き渡ること数十分。

やっと痛みの魔の手から解放されたメネアはフラフラと立ち上がると、自分の身体が軽い事に気がつく。

疲労が溜まっていた足に痛みはなく、むしろ以前よりも動きやすく感じる。

その小さな事に感動しているとゼロから声がかけられる。


「ほら行くぞ。早くしないと日が昇ってしまう」

「あ、はい!」


今の時刻は深夜1時。

人間であれば寝ている時間。だがどうやらダンジョンは24時間体制のようで、酷使されているモンスター達が可哀相......なんて事は微塵も思っていないゼロは、これからの行動についてメネアに説明する。


「メネア。第三階層でだが、目的は第四階層の階段を見つけることだ。極力戦闘は避ける」

「わかりました」


そしてゼロはレーダー類を全開して索敵を行う。


•••••


「モンスターに全く会わずに見つけ出すなんて、ついてますね!」

「そうだな」


そんな訳はない。モンスターに出会わなかったのは、出会わないように道を調整していたからだ。

それ故一度通った道を引き返すなど、時間短縮のための行動のはずが、逆に時間がかかり過ぎた。

そして第四階層への階段を見つけたわけだ。

よし、行くか。

そうしてゼロとメネアは第四階層へと降りて行くのだった。

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