第19話 ダンジョン 1-8
「雇おう。だが幾つか条件がある」
「何ですか?」
ゼロはこの
「ちなみに条件を聞いたら無条件でそれに従ってもらう。嫌ならばここでさよならだ」
ゼロの雰囲気が先程までとは違い、何のミスも許されないようなピリピリした緊張に包まれる。
ゴクリ、と唾を飲み込む。その音が異様に大きく感じられた。
「......わかりました」
「......それはどっちのわかりましただ?」
「条件を聞きます」
「よし......ならばまずは宿を取ろう。話はそれからだ」
•••••
その後、適当に宿をとったゼロは部屋に子供を招き入れ、ベッドに腰を下ろしたのを見ると話を再開する。
ちなみにゼロは立ったままだ。部屋には椅子があったが、100%重さで壊すだろう。
「条件についてだが、まず第一に報酬は金銭ではなく物品にする」
「え⁉︎ちょっとそれは——」
「まぁ待て。質問や意見は最後まで聞いてからにしろ」
ゼロの言葉に一瞬取り乱すが、ゼロが落ち着かせる。
「今言ったのを説明する前に参考までに聞くが、君はポーターという職に就いている。そうだな?」
「......はい......どうしてそんなこと——」
「言ったはずだ。質問は最後にしろ」
ゼロの雰囲気と声の低さに子供が硬直する。
「返事は?」
「......はい」
「では次の質問だ。ポーターという職業は犯罪など後ろめたい事をする職業か?」
「い、いいえ。......で、でも生活に困ったりしてる子たちはする子もいる、います」
人それぞれということか。この子が犯罪に手を染めたことがあるかはわからないが、犯罪を犯す者がでる職業として見られている場合はどうなる?
「念のため聞いておくが、君は犯罪を犯した、または加担したことはあるか?......正直に答えろ」
「......あります......」
マジか......。
「何をした?」
ゼロの口調と声がこの空間を支配していく。
いつしか子供は正直に話すしかないと思うようになってきていて、他に何かを考える余地など残されていなかった。
「......冒険者と、ダンジョンに潜った時に、魔石を幾つか、取りました......」
「......冒険者とは先程の奴らか?」
「......はい」
「他には?」
「他には、ありません」
「ならば良し」
「......え?」
子供は一瞬何を言われたのかわからなかったが、理解が及ぶと、何故許されたのかわからなくなった。
「あいつらは犯罪者だ。今回は未遂とはいえ犯罪は犯罪。犯罪を犯す者は犯罪を犯されても文句を言うことは許されない、と私は思うのだが、君はどう思う?」
「えっと......わ、わかりません」
「ふむ......まぁいいか。では質問の続きだ。冒険者とポーターが組んだ時、ポーターの報奨金の取り分はどれくらいだ?」
「それは、パーティーの人数によります」
「それは山分けということか?」
「はい、そうです」
「そうか......。いや、わかった。では最後の質問だ。君の目的は何だ?」
そう。これが最も重要な質問だ。答えによっては雇うのは無しになる。
「目的、ですか?」
「そうだ。君は何をするために、どんな目的があってポーターをやっている?」
「......私の目的は......家族の生活......命を守る、ため。だからお金が必要なの」
「......だからポーターをやっていると」
「そう......」
「今までポーターをやってきて、それで守れてきたのか?」
「......」
子供相手にこの質問は重過ぎたか......。
力無く俯いてしまった。
どうしたものかと悩んでいると、ふとある事を思い出した。
「君は魔法を使えるか?」
「......はい。でも生活魔法、くらいしか使えません」
生活魔法?生活に関する魔法か?研究対象にはなるだろうが、利用価値はあるのか?
「では君の家族に魔法を使える者はいるか?」
1人いる。それも魔法の才能ありと言える人物が。
子供は、その自分の家族であり親友の事を言ってもいいのだろうかと一瞬悩むが、今自分の目の前にいる人物ならば今の自分たちを救ってくれるのではないかと根拠のない確信にかけることにした。
「1人います」
「そうか......。では最後に確認するが、君は"家族が平和に暮らせれば問題ない"わけだな?」
「そ、それは——」
「あぁ、悪かった。変な言い方をしてしまったな。言い直そう。君は"君を含む君の家族が、各々が命の心配をすることなく平和に暮らすことができるのならば問題はない"という事でいいかな?」
「......はい、たぶん」
「はっきりしないな。まぁ安定すれば後々雇用条件を変えてもいいか......。よし。で、君の報酬についてだが、君が本来受け取る報酬分の食糧などの生活必需品でどうだ?いつも報酬で食べ物を買っていたのだろう?」
「......」
「......それと、これは別件だが、君とさっき君が言っていた、魔法を使える人物に協力してもらいたいことがある。協力してくれるのならば報酬分の物品を上乗せする。どうだ?」
「......わか、りました。お願いします」
「では、契約成立だな」
「はい。よろしく、お願いします」
「あぁそういえばまだ名乗っていなかったな。私はゼロだ」
「メネア、です。よろしく、お願いします」
メネアは名乗り、頭を下げた。
ゼロは問題が1つ解決した事に安堵と達成感を覚えていた。
それに魔法に関して協力者を2人確保できたのだ。これは大きい進歩だ。問題はその2人の実力だが......。
「じゃあ次はまず風呂だな」
「......え?」
「そんな薄汚れた格好で側にいられても困る。着替えも用意しなければならないな。......
この世界では風呂に入る習慣はなく、一般市民は井戸水や川の水で身体を拭く程度らしい。
そんなもので身体の汚れが落ちるわけがない。
はっきり言って汚い。
「え?ま、待って!ひ、1人でできるから!ちょ、ちょっと待って!」
「何を言っている?どうせ洗い方もわからないのだろう?いいからさっさと歩け」
メネアは強引に浴場に連行されていった。
•••••
時刻は午後2時過ぎ。
場所は高級宿屋パテスティの浴場"男の間"
その浴場には2つの影があった。
1つはゼロの、もう1つはメネアの、だ。
ゼロはシャンプーにリンスにボディーソープと、
その洗われているメネアだが——
「こっち見ないで」
「それは無理だ」
現在激おこぷんぷん丸である。
何が原因かと言えば——
「メネア、女の子だったんだな」
「悪かったですね。女の子に見えなくて」
ゼロはメネアが女性である事に気付いていなかった。
栄養をちゃんと取れていなかったために身体は痩せているため色々と成長していない。
今までは顔も汚れていたためによくわからなかった。
服を脱がせた時初めてメネアが女性である事に気付いた。
だが女性であるメネアの身体を見てもゼロは動揺の一つもせずに「先行って待ってろ」と言うだけだった。
これがメネアの怒りの理由の大部分を占めている。
そもそもゼロは女性の裸程度で取り乱すことはない。これは性欲がないということではなく、単純に見飽きているのだ。最後に女を抱いたのは数十年前の事だろう。
先に浴場に入らせたゼロは何をしていたかというと、メネアの新しい服を作成していた。さすがに
メネアはこれから共に行動するわけだが、まだ会って数時間だ。完全に信用は出来ない。
「ブラは......必要ないだろう」
不名誉極まりない言葉を吐いたゼロは出来上がった服を眺め「我ながら上出来だ」と自画自賛していた。
服は乳白色と薄茶色を基調としたもので、フリルを各所に使い統一感を出してみた。
服を作り終え、今度はシャンプーなどの洗髪剤を作る。
そして現在に至るわけだ。
「泡を流すから、いいと言うまでは目を瞑っていろ」
メネアの頭の泡をお湯で流す。
頭については既に3回目の洗髪だ。
初めの一回は全く泡立たなかった。
2回目でやっと泡立ったと思えば、白かった泡は茶色に染まる始末。
今回でようやく終わりそうだ。
最後にリンスで仕上げる。
「もういいぞ」
次は身体だ。
タオルにボディーソープを垂らし泡立てる。
十分に泡立ったのを確認してメネアの身体の垢などの汚れを落としていく。
背中、手、足と洗い終わる。次は——
「あとは自分でやるから!」
顔を真っ赤に染めたメネアは、ゼロの持っていたタオルを掻っ払うと自分で洗い始めた。
「そうか、では終わったら洗い流して暫く浴槽に浸かってくるといい。私は出たところで待っている」
「わ、わかった」
そう言うとゼロは浴場から出て行った。
そんなゼロの後ろ姿を見て——
「なんでゼロさんは脱いでないのさ」
と、小さく言葉を洩らすのだった。
ゼロは浴場から出た所で
直接濡れたわけではないが、メネアを洗っていた時湯気に包まれていたので全身濡れている。
そしてメネアの出を待つこと10分。
メネアが身体の局部を隠しながら出てきた。
ゼロはメネアが出てきたのを確認するとバスタオルを渡す。
「これで身体を拭け」
メネアは無言で受け取り、ゼロとは反対側を向いて身体を拭きはじめる。
ゼロは拭き終わるのを待つ。
「拭き終わった、です」
「......」
ゼロは返事をしない。
眉を寄せたメネアが話しかける。
「ゼロさん?終わりました」
「......ん?あぁ、悪かった。少し考え事をしていてな......。これが服だ」
「いいの、ですか?」
「あぁ、メネア服持ってないだろ?」
「ぅ......」
ゼロから——メネアが見たことのない——様々な衣服を渡される。知らなければ、当然着方など想像するしかない。
悪戦苦闘しながらやっとの事で全ての服を着終わる。
そして完成された——下手したら貴族の令嬢よりも可愛いと言える——メネアを見てゼロは言葉を洩らした。
「なかなか可愛いじゃないか」
そう言われたメネアが顔を真っ赤にして後ろを向く。
風呂に入るまでは身体が土などで汚れていたためわからなかったが、メネアの髪はとても綺麗な金髪で、その白い肌や翠眼ととても合っている。後はちゃんと食べて身体を作れば十分に美少女と言えるだろう。
それからというもの、食事の時間やそれ以外の時もメネアは嬉しそうにニコニコと笑っていた。
宿の夕食を食べ終えたゼロは、夜のダンジョン探索をするとメネアに伝えた後——ネメアは夜まで寝るらしい——部屋の壁に寄りかかり、先ほどの通信の内容を考えていた。
•••••AIからの通信記録
《→定時連絡か?此方は特に問題はないな》
《←はい。まず
《→なるほど。ゴブリンの代わりは必要か?必要なら必要な分だけ用意できるが》
《←いえ、それは大丈夫です。それとあの液体についてですが、濃度が低すぎるためよくわかっていません。実験にはもっと濃度の濃いものが必要になります》
《→了解した。何かわかったら報せよう。報告は以上か?》
《←いえ、後一つ。何者かがこの拠点を監視しているようです」
《→何?旅人や冒険者、行商人などではなくてか?》
《←はい。此方も秘密裏に向こうの監視を行いました。複数人確認できましたが、その全ての装備が統一されていることに加え、動きもまた統率されているものと判断。これを何かの組織または国家と断定しました》
《→斥候か》
《←恐らくは、そうかと》
《→手は出してきていないのだな?》
《←はい》
《→ではそのまま静観せよ。向こうからコンタクトを取ってきても無視しろ。そいつらだけでなく、旅人や冒険者、行商人もだ》
《←了解しました》
《→それと、また今夜アサシンを寄越してくれ。それと
《←了解しました》
《→では通信を終わる》
•••••終わり
ゼロは、また厄介ごとか、と一人溜息を吐くのだった。
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