第17話 ダンジョン 1-6
現在5時、早朝。
ゼロは昨日——今日——の成果を納品するために冒険者ギルドへ向かっている。
冷え込んでいるため薄っすらと霧がかかった街の公道は太陽の光を受けて、また独特な景観を作っている。
街の住人たちは早いもので、商売人たちは店を、母親は朝食の支度を、父親は洗濯を、冒険者達はギルドの掲示板へ、子供達は公道や、洗濯をしている兄弟や父母の周りを無邪気に走り回ったりして遊んでいる。
実に和む......平和な光景だ。
しかし......早く起きて行動するとは健康的な者達だな。私の部下とは大違いだ!
ゼロの部下——特に百人貴族——は人によっては寿命が無いのをいい事に24時間惰眠を貪っている者もいる。
......私は寝るために寿命の概念をなくしたわけでは無いぞ......。
......再教育せねば......。
そう強く決意するのだった。
•••••
冒険者ギルドに着いた。
ドアを開けて中に入る。
中には既に7人ほどの冒険者がおり、掲示板を見たり、ギルド職員と話していた。
まだ全然静だ。これから段々騒がしくなってくるのだろう。
ゼロは受付カウンターへ向かう。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご利用でしょうか?」
受付の女性職員と目が合い話しかけてくる。
昨夜の受付嬢とは別の受付嬢だ。
「討伐部位の納品をしにきました。買取をお願いします」
「かしこまりました。此方のプレートにお願いします」
スケルトンの魔石53個が入った袋をプレートに載せる。
受付嬢の目が僅かに見開かれたが、直ぐにもとに戻った。
「魔石が53個あると思います。確認をお願いします」
「かしこまりました。少々お待ちください」
カウンターの中で魔石の数を数えている。昨日の受付嬢より手際がいい。ベテランなのだろう。
数十秒後受付嬢が顔を上げた。
「お待たせしました。グレード1の魔石が53個確かに確認いたしました。1個大銅貨1枚での買取で、銀貨5枚と大銅貨3枚。また討伐報酬として1体銅貨5枚になりますので、合計銀貨7枚、大銅貨9枚、銅貨5枚になりますがよろしいでしょうか?」
「はい。それで宜しくお願いします」
「かしこまりました。......此方が報酬となります。ありがとうございました」
報酬を受け取る。
ゴブリンは1匹倒すと銅貨5枚になるが、スケルトンの場合は魔石を納品するため1体で銅貨15枚分になるのか。
ゴブリンの3倍の値段とは......。ほとんど戦闘が起こらず瞬殺していたためゴブリンやスケルトンがどれほどの強さを持つのかがわからないが、そんなに変わらない気がする。だとしたら冒険者は皆スケルトンの方へ流れてしまうのではないか?
そんなゼロにとっては何の関係も無く、実際ゼロも興味の欠片もない疑問を浮かべるが直ぐに別のことに思考がいく。
「そういえば、第三階層には何が出るのですか?」
「第三階層はゴブリンとスケルトンですね」
「ほぅ、混成ですか?」
「混成と報告されていますが、絶対はないので保障しかねます」
「そうですよね。すいませんでした」
「いえいえ。わからないことがあればおっしゃってください、冒険者ギルドもできる範囲でお手伝いいたしますので」
「それはありがたいです。......ちなみに第四階層はわかりますか?」
「第四階層はゴブリンとスケルトンが中心で、たまにオーガが出現すると報告されています」
「なるほど......あ、いえ、ありがとうございます。話が変わるのですが、モンスターの見た目や弱点などわかる書物はあったりしますか?」
「ギルドの書庫に図鑑がありますが、貸出などは一切行っていないので、閲覧される場合は書庫にある閲覧スペースのみとなりますが。閲覧されますか?」
「お願いします。......料金は発生しますか?」
「いえ、閲覧では料金は発生しません。するのは書物などを破損させた場合のみです」
「わかりました。お願いします」
「はい。では此方です」
受付嬢が受付カウンターから立って書庫まで先導してくれる。
書庫の入り口は受付カウンターの右端にあった。
受付嬢がドアを開けて入る。
書庫の中も、ギルドや街を明るく照らす結晶体がインテリアのようなお洒落な感じに金属でコーティングされており、とても美しい光を放っている。
こういうのをアンティークとかに分類するのだろうか?
部下の1人にアンティーク製品を収集したり自分で作ったりと、人生をアンティークに捧げているようなやつがいるが、この光源体はあいつのお眼鏡に叶う、いやあいつはこういうのを欲したりするのだろうか?
そんなインテリアが幾つか——本体は見えないが、発する光により場所がわかる——置いてある書庫には、幾つかの本棚が置かれており、古そうな埃を被った古書が所狭しと陳列していた。
そしてその全ての書物を見渡せる位置に1人の老人が座っており、何やら筆を動かしていた。執筆でもしているのだろうか?
老人はくすんだ灰色の髪に、鳩尾位まで切られることもなく伸ばされた髭をたくわえており、執筆をしている姿は、まさしくこの書庫の主人たる雰囲気を漂わせている。
受付嬢が老人に近づいていく。
「メルトさん。この方が書庫を利用したいそうです」
「お仕事中申し訳ありません。ゼロと申します。宜しくお願いします」
「......」
「メルトさん、あとは宜しくお願いしますね。ではゼロさん。ごゆっくり」
「はい。有難うございます」
受付嬢——そういえば名前知らないな——が書庫から出ていき、書庫には2人だけになる。しかしこの老人、無口な人なのか?全く喋らないな。少し待ってみるか。
「......」
「......」
「......」
「......」
「......」
「......」
老人の、紙に筆を滑らせる音がただただ聞こえてくる。
ゼロは立ったままただこの音を聞いて楽しんでいた。ゼロはこういう時間が好きだったのだ。静かな空間で趣味か何かを黙々としていくことが。
老人が何も喋らないまま、待つには十分な時間が経過した時、老人が口を開いた。
ひと段落ついたのだろうか。
「......何を探しとるんじゃ?」
「ダンジョンを含めた、ここら辺一帯に出現するモンスターの図鑑のようなものを探しています」
「......あそこじゃ」
老人が皺くちゃの骨ばった細長い人差し指を向ける方向に向き直り、指差す場所を探す。
ゼロが探している書物の場所まで行くと、1冊の厚い——他と比べたら厚い——書物があった。
「これですか?」
「......そうじゃ」
「拝見してもよろしいでしょうか?」
「......好きにせい」
と、いうわけなので近くにあった机まで行き、椅子に腰を下ろすと、ギィィィと椅子が
その音が書庫中に響き渡る。
おっと、
老人に目をやるが特に気にした様子はなく、先程までと同じように執筆していた。
椅子を壊すわけにはいかないので立ったままの閲覧になる。
書物を開く。......これは図鑑だよな?
そこには手描きの絵が1ページ毎に載っており、それに合わせてある程度の文字が記載されている。
しかし、はっきり言って絵が雑過ぎる。なんだこれは......子供の落書きレベルのものだ。
おそらくゴブリンのページなのだろうページに載っているゴブリンの絵は、子供が"人"の絵を描いたものと区別できないほどのレベルだ。酷すぎる。
だが中にはうまく描かれているものもあり、この図鑑が1人の手によって作成されたものでわないことがわかる。
図鑑のページをめくっていき全て画像として保存していく。と、同時にAIが文字の解読をしていく。本来ならば解読にはかなり時間が掛かるのだが、音声言語の解析がだいぶ進んでいるため、それほど時間はかからないだろう。
図鑑の全てのページを記録し終わりそうな時、顔を上げた老人が話しかけてきた。
「お前さん、名前は」
一瞬、さっき言っただろ、という言葉が出そうになるが、なんとか呑み込んでゼロは答える。
「ゼロと申します」
「......書物は好きか?」
......ん?あぁなるほど......だとしたらこういうのは時間を置かずに答える方がいいな。
「はい、好きです」
「......そうか」
「......」
「......」
それだけ聞くと、老人はまた執筆に戻った。
図鑑を制覇したゼロは、図鑑を元あった場所に戻すと、隣にある——何の書物かわかっていない——書物を取り出してその場でページをめくりながら記録していく。
解析をより深めるためには情報が多くある方が効果的だ。
ゼロが今閲覧しているのは、どうやら植物の図鑑みたいだ。沢山の植物の絵が細かく載っている。さっきのモンスター図鑑より細かい。文字の量も多い。図鑑としての役割をちゃんと果たしている素晴らしい作品だ。
前回の図鑑が酷すぎたこともあり、今閲覧している図鑑が如何に凄いかより実感できる。
そんなことを考えていると、また老人が話しかけてきた。
「それは植物図鑑じゃ」
「っと許可なく失礼しました。......ですが素晴らしい図鑑ですね。とても細かく作られている。絵や説明欄の構成が上手く、全体を美しく感じさせてくるある種の芸術品のようです」
「......そうか?」
ん?......今のイントネーションだと、まるで......まさかな。
植物図鑑も全て記録し終わったので、書庫は今日はこの位にしておく。
図鑑を元に戻し老人の方へ行く。
「閲覧し終わりました。今日はこの位にします。ありがとうございました」
「......」
老人は何も言わずに執筆に打ち込んでいる。
ゼロは礼をすると書庫を出た。
入ってから30分程が経過している。
ロビーには、先程までの人数の3倍近い冒険者がおり、話し合ったり掲示板を見たりしている。
とても騒がしい。もう一度書庫に戻りそうになるがなんとか堪える。書庫とは大違いだ。
......さて、これからどうするかな。ダンジョンには冒険者が沢山いるだろうから、昨夜のように自由な行動は出来ない。
ゼロの戦闘能力的には銃火器や空間に影響を及ぼす部類の武装が使えなくても十分に戦えるのだが、ゼロは接近戦を好まない。なぜなら——
......身体動かすのは好きじゃないしな〜。
つまり、そういうことである。
単純にして明快な解答だ。
ならば、これからどうするのか。
まだ余裕で"朝"に分類される時間帯だ。
自由になれる夜には時間がありすぎる。
......取り敢えず、街でも見るか......。
そう決めると、ゼロはギルドを出たのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます