第16話ダンジョン 1-5

第二階層への階段を下る。

何が現れるかが不明なため現在は不可視化している。

そしてそいつらはすぐに現れた。

カラカラと音を立てながら移動している細身の者達。

"肉"を持たないその者達には表情というものがなく、多くの生き物から"死"という意味で嫌悪される存在。死の象徴とも言える骨達が闊歩していた。

......ふむ......これらがスケルトンか。しかしどうやって動いているんだ?

この者達が私達の知る普通の"骨"ならば、身体を動かすのに筋肉が必要であり、動きをなめらかにするには軟骨、そもそも動きの命令を出すための脳やそれを伝達するための神経が必要だ。

私の目が確かならこの者達スケルトンは骨だけで動いているようだ。......いや、まて。

よく見ると骨......スケルトン達は肋骨の中——ちょうど人間でいえば心臓の辺り——に暗く紫色に光っているような結晶のような物が見える。

あれが受付嬢の話していた"魔石"だろう。

あれがスケルトンを動けるようにしているのだろうか。だとしたら確実に進歩できる成果を上げられるサンプルになる筈だ。大量に持ち帰るとしよう。

そう決めるとゼロの動きのは早かった。

マゴリアを手にし、狙いをスケルトンの頭蓋に定めて発砲する。

銃弾は正確な軌道を描いてスケルトンの頭蓋を貫通した。スケルトンが衝撃で地面に崩れ落ちる。

続けて2体目のスケルトンに狙いを定めて発砲——

......なんだと⁉︎

最初に倒したはずのスケルトンがあご骨をカタカタと鳴らしながら起き上がる。頭蓋には確かに穴が空いている。

......不思議現象め......絶対に取り込んでやる。

顎を鳴らしながら立ち上がるスケルトンは、まるで科学という人類の努力の結晶をまるで嘲笑っているようで、ゼロを不快にさせた。

それにまだある。モンスターについてはまだ全然理解を深められてはいないが、仮に生き物であるとするのならば、必ずその親にあたる存在がいるはずだ。実際にゴブリンを調べているAI達からの情報では、ゴブリンにはオスとメスがおり生殖器官を持っているとのこと。ゴブリンは子孫を残す"生物"だと言える。

だがスケルトンは如何だろうか。

見た限りではあるが、生殖器官又はそれに準ずる物、子孫を残せるような物は見当たらない。

ならば生物ではないのか?だとするのならば自然生成物か人工物くらいだが......。

そのどちらだとしても、ある一つの答えに辿り着くのではないだろうか......。

ならばダンジョンとは、まるで——


自動工場ファクトリーじゃないか......」


自動工場。それはゼロの支配する世界エデンに存在する人の手を一切借りずにあらゆる物体を作り上げる完全自動の工場。機械のメンテナンスなども全てロボットが行う。一つの工場には人間は数人しかおらず、その全てはロボットの監視としての役割を与えられている。

ダンジョンとは、そしてそこにいるモンスターとは何なのか。早急に調べる必要性があるとゼロは考えた。

念のためある程度動けるまで態勢が整ってから動くとしよう。

そして現在。1体目のスケルトンが立ち上がった。

そしてこちらを向き顎をカタカタと鳴らす。それに伴って周囲にいたスケルトン達も此方を向く。

......そして此方に走ってきた。

持っている武器を掲げて。

雄叫びを上げて。カタカタして

不可視化しているのだが......見えているようだな......。

ゼロはヘルムの中で盛大にため息をつくと不可視化を解いて物質変化装置ランプを起動した。

マゴリアの先端を改造。ラフマン37ELから大気震動発生装置スフィアに変更。

そして......発動。

その瞬間ゼロの前方の大気が震えた。やがて大気の震動が物体へと伝わる。壁へ、床へ、天井へ、そしてこの空間にゼロ以外で唯一存在していた存在、スケルトンへと。

震動した大気がスケルトンの身体を襲う。

スケルトンは、持っていた金属製の武具諸共砕け散った。

発動して1秒ほどで、ゼロに迫っていたスケルトンの数体全てが本来の姿に戻った。


「......土に還れ」


ゼロはそう言葉を吐き、魔石なるものを全て回収して歩いて行った。


•••••


それからというもの、ゼロは単純な作業をするロボットのように、スケルトンを見つけては砕いていった。

やっていることはゴブリンの時と変わらないのだが......。

途中、スケルトンを砕くと同時に魔石も砕いてしまうことが何度かあったが、今は魔石量産中なので許容範囲内だろう。

そして、深夜1時を回った頃、そいつは現れた。

周囲を複数のスケルトンに守らせた存在。

おそらくそいつもスケルトンなのだろうが、上位の個体に違いないだろう。これは狩るしかない。

そして今までと同じ様に同じ要領で、マゴリアを対象に向け大気震動発生装置スフィアを発動させようとした時。

ゼロよりも早くそいつが動いた。

そいつはマントの長い裾から白い骨の手を出すとゼロの方向へ向けた。

......そして複数の火の玉がゼロ目掛けて飛んできた。

ゼロはその場から横に飛び退き、通路の角に隠れる。その後直ぐにゼロの立っていた場所に火の玉が着弾し、爆発する。

起こった爆風をゼロのマントが受け止め強く揺れる。

......今までの様にはいかないか......。

だがあいつもスケルトンなんだよな。

なら、要は攻撃するより先に発動させればいいわけだ。

カタカタとスケルトンが近づいてくる音がした。おそらく雑魚の方だろう。

角から先端だけマゴリアを出し大気を震動させる。マゴリアの近くの床と壁に亀裂が入る。

音が止んだ。

......済んだか......。後は魔石の回収......少し強めに震動させたからな......もしかしたら魔石が砕けているかも。

スケルトン達のいた通路に出る。

そこは、かなり細かく砕けたカルシウム化合物スケルトンだった物がダンジョンの床を白く染め上げていた。

そして......再び火の玉がゼロを襲う。

っ!なにっ⁉︎

そいつはまだ立っていた。

周囲を守っていた取り巻きスケルトンは全て白い染料になっていたが、そいつだけはまだスケルトンだった。

再び角に隠れるチキンプレイ戦略をとる。

しぶといな、大人しく砕けろっ!

しかしこれ以上舐めてかかるのは良くないな。

ゼロは強化外骨格アーマーの全レーダーを起動する。

集められた情報がヘルムのモニターに映し出される。

敵は一体。あいつだけだ。角を曲がった通路は直線で、あいつはそのど真ん中に位置している。そして全く動こうとしない。手はこちらに向けられたままだ。

......なるほどな。しかしどうやって大気震動発生装置スフィアを無効化したのかはわからないが、なら別の手段をとるだけだ。

今までは何処に目があるかわからないために大々的には使えなかったが、まぁ大丈夫だろうという根拠も何もない楽観的な考えのもと物質変化装置ランプを起動する。

作成するのは浮遊装甲ドラグーンだ。

第一世代浮遊装甲ドラグーンは第一世代浮遊艦カルツァーと同時期に開発された兵器であり、防御と攻撃の2つを併せ持った武装である。

第一世代の浮遊装甲ドラグーンは、それを操作するのに巨大な装置を必要としたが、物質変化装置ランプが開発されてからは装置を必要としなくなった。

物質変化装置ランプがあれば事足りるのだ。

ただし、操作する浮遊装甲ドラグーンは、その性能と数に比例して演算処理が複雑、膨大になる。

本来ならもっと作れるが、今回は3機だけにする。

3機の浮遊装甲ドラグーンがゼロの周囲を浮遊する。

ゼロが命令し浮遊装甲ドラグーンスケルトンに向かっていく。と同時に攻撃を開始する。

ゼロは引き続き角でレーダーを使い監視している。

スケルトンが動いた。火の玉を作り飛ばそうとしている。

浮遊装甲ドラグーンの攻撃が作成中の火の玉にあたりスケルトンの目の前で爆散した。

煙で通路は一時的に見えなくなっているだろうがゼロには関係なく。今もモニターでスケルトンを監視している。

どうやら今の爆発で片腕——火の玉を放っていた方——

が失われたようだ。

まだ煙は収まっていない。今回作成した浮遊装甲ドラグーンはレーザー系なため煙が舞っている時は使いづらい。標準が合わないからだ。

そしてこいつもカタカタ言い始めた......。

腕を失い嘆いているのか、怒っているのか、笑っているのかがわからない。

煙も収まってきた。

まぁいいかと攻撃を再開する。


•••••


(他と比べて)多少強かったスケルトンとの戦闘を終えたゼロは、今までの魔石よりも2回りほど大きい魔石の重みに思わず笑みがこぼれた。

何に使うか、使えるか、まだ不明の段階だが、「これは使える」と思ってしまった程だ、とても嬉しかったのだろう。

スケルトンを倒して一区切りついたところで今日——もう既に日付は変わっているが——はここまでにするか、と地上に戻ることにする。

ゼロの持つ袋の中には紫色に妖しい光の灯った、正に宝石と呼べる結晶体"魔石"が大量に入っており、その尖った結晶独特の形で袋の中から自分達をアピールしていた。

ゴブリンの時——耳(気持ち悪い)——とは大違いだ。

魔石の数は"大"が1個に"小"が103個。ゴブリンの時よりは数が少ないがおそらく、いや確実に今日一番の収穫だろう。


•••••


地上に出た。帰り道中第一階層のゴブリンに出くわしたのでついでに屠っておいた。討伐部位は回収済みだ。

再びAIに連絡を入れる。

程なくして自動歩行人形オートマタのアサシンが来たので魔石を渡す。

渡す数は"大"を含めて151個。残りは資金調達のために売る。つまり"小"を53個売る。

「毎回すまない」と労いの言葉をかけ、別れる。

その後ゼロは街の中へ戻っていった。

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