第15話 ダンジョン 1-4

「ダンジョンの事で質問があるのですが?」

「はい、何でしょうか?」

「今回は第一階層で探索していたのですが、第二階層では何が出るのですか?」

「第二階層には......確かスケルトンだったと思います」


スケルトン?どんなモンスターなんだ?まぁゴブリンでないなら構わないが......。


「その、スケルトンの討伐部位は何でしょうか?」

「......スケルトンの討伐部位は魔石ですよ?......」


......魔石とはなんだ?実物を知らないと何を持って帰ればいいのかがわからないな......。


「そういえばそうでした。私としたことが、ついうっかり。......そういえば、このギルドでは魔石は取り扱っていますか?」

「はい。前の道を挟んだ向こう側に、冒険者ギルドの道具屋があります。魔石はそちらでご購入できますよ」

「ありがとうございます。聞きたい事はこれで全部です。ありがとうございました」

「いえ、何かあったらまたいらしてください。お待ちしております」

「わかりました。その際はよろしくお願いします。......では私はこれで」


用件を済ましたゼロは、そのまま先程と同じ様に同じ道を歩いて壁を飛び越えダンジョンに入っていった。

ゼロが冒険者ギルドから出ていき、今までと同様に静寂が訪れるなか、書類にペンを走らせる音と書類をめくる音だけが聞こえ始める。

その時、ゼロの用件を担当していた職員——ミカンという名前の女性職員——が夜勤の相方であるカレンに話しかける。


「今の人凄い丁寧だよね〜」

「確かに、冒険者にしては丁寧な喋り方だったね」

「ん?いやぁゼロさんは冒険者じゃなくて商人らしいよ?ごつい鎧着てるけど」

「そうなの?......でも確か、南方の方には自衛のために武装した行商隊がいるみたいなこと聞いたかも」

「まじ⁈流石は才色兼備なカレンだね〜。貴族様変態に目をつけられるだけはある」

「⁈ちょっとやめてよ!鳥肌立っちゃったじゃない」

「アハハハハ。それマジじゃん!アハハハハ。超ウケる。どんだけ嫌なのよ。アハハハハ」

「......そろそろ止めようか?ね?ほら、仕事も残ってるし?このままだとカレンは仕事ができない身体になっちゃうよ?」


笑顔のカレンが額に青筋を立て、ギルドから護身用に支給されている短剣を抜く。


「......いや、それは"生活のできない身体"の間違いだと思う」

「どっちも同じ意味でしょう?」

「いや!違うよ!断じて違うよ!いやそんなことよりとりあえずそれしまおうか!」

「......ミカン?」

「はい!」

「何か言うことは?」

「......ご、ごねんね?」

「......ん?」


青筋付きの笑顔のままカレンがミカンに迫り、短剣をミカンの首筋に近づける。


「......何か言うことは?」

「ゴメンナサイ」

「よろしい」


その後相方カレンが短剣を鞘に戻すと、全身の緊張が解けたのか持ち場カウンターにへばり付いた。

そっとカレンの方を盗み見ると、先程までと同様にテキパキと仕事をしている。

対してミカンは今のやり取りで気力が尽き果て、全身が重く感じられた。


「あ"あ"ぁ〜〜仕事したくな〜い......」


肺の中の空気を一気に出すように吐き出されたミカンのその言葉が、静かなギルド内に響き渡ったのだった。


•••••


一方その頃、ゼロは壁を飛び越えた場所でAIが寄越してくれた自立歩行人形オートマタと会っていた。

ゴブリン狩りで手に入れた杖を受け渡す為だ。

AIが寄越してくれたのは"アサシン"と呼ばれる、暗殺などの隠密行動に特化した性能を持つ真っ黒な個体だ。その為他の自立歩行人形オートマタと比べると形状から既に違うことがわかる。大抵の自立歩行人形オートマタは人型でありアサシンもそうなのだが、どちらかというと骨格標本骸骨といった方が正解かもしれない。

軽さを重視した個体の為、保護の為の装甲が極限まで減らされているのだ。その為、各種レーダーや内蔵武器、コア大事な部分などが丸見えになっている。

だがそれでも、この世界ならば十分に役に立つ自立歩行人形オートマタだろう。

収穫物を渡し終え、そのまま付いてくるよう命令すると再びダンジョンへと足を踏み入れる。

今度は1人分ではなく2人分の足音がダンジョン内に響く。

そして今回は第二階層に直ぐには向かわず、適当な通路で止まり物質変化装置ランプを起動する。

作るのは超強力なモーターとダイヤモンドを使用した高性能掘削機だ。

少し部品が多かったが20秒くらいで完成した。

それを青白い光を灯している壁に突き立て......っと忘れていた。


「念のため、周辺警戒をしておけ。近付いて来る者がゴブリンなら始末して構わん。それ以外なら即座に知らせろ」

「了解しました」


一応アサシンには伝えたが、念のためさらなる保険として探査球体ドローンを広域に飛ばしておく。

これである程度は大丈夫なはずだ。

早速掘り始める。電源を入れ起動すると、モーターの回転の音が徐々に大きくなる。

......やはり物質変化装置ランプで作ったものは、自動工場ファクトリーで正規の手順を踏んで作られたものには劣るか......。音の煩さが酷い。さっさと終わらせよう。

最高速度で回転するドリルを壁に突き立てる。表面の方はスムーズに削れていたが、ある程度の厚さまで削ると壁にヒビが入り崩れ始める。スムーズだった音がガガガガと荒い音に変わる。

......っと、これくらいでいいだろう。

十分に削れた壁に満足し掘削機の電源を切る。

掘削機を物質変化装置専用物質ナノマテリアルに分解して収納する。

そして削れた壁やその周辺に散らばった瓦礫の中から、サンプルとなり得る光り輝く物を十分な数を集めると、袋に入れてアサシンに渡す。


「これもついでに頼む」

「了解しました」


そしてアサシンが帰還の為ダンジョンの出口に向かい始める。

対してゼロはあらかじめ見つけていた第二階層への入り口のあった場所まで向かう。

......スケルトン、か。どんなモンスターなのやら。

ゼロは期待半分、もしかしたらゴブリンみたいなモンスターなんじゃないか?という不安半分でダンジョンを進んでいった。

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