第14話 ダンジョン 1-3

時刻は午後9時になった。

ダンジョン探索に来ていたはずが、いつの間にかゴブリン狩りになっていた。遭遇してきたゴブリンの討伐部位も全て回収してきたために数が凄いことになっている。

この階層はまだ全て見回った訳ではないが、荷物の整理と下の階層についての情報を得るために一度地上に戻ることにする。

もう夜であり、街は寝静まっている時間帯だと思うのだが、冒険者ギルドは24時間体制らしいので今から行っても大丈夫だろう。

地上へ上がる為の階段がある場所まで最短経路で歩いていく。

......おかしい......死体は何処だ......。

今までに倒してきたゴブリン達の死体は、討伐部位を切り取った後はそのまま放置していたのだが、放置していたはずの場所には死体は疎か、血痕一滴すら残っていなかった。

何者かが持って行ったのか?冒険者......いや、受付嬢の話では、ゴブリンは持っている装備以外金銭になる物は無いらしい。その装備も大した金額にはならないらしいので、持って帰る者もいないのだとか。

だとしたら......モンスターか?......だがこの階層ではゴブリンしか見ていないが......まさか共食いでもするのか?......あり得るな......。

少し気にはなるが今は探索優先なので、これについては時間のある時にして今は先を急ぐとする。


•••••


冒険者達がたむろしていた部屋まで戻ってきた。

流石に行きにいた冒険者達は誰もおらず、青白い光が支配するなんとも寂しい感じの空間になっていた。

帰り道では2パーティー分のゴブリン集団に銃弾を浴びせて、今までと同じように切り取り作業をしてきた。

おかげで腰にぶら下がっている袋はもう既に飽和状態であり、これ以上は新しい袋がないとキツイ。

地上への階段を上がっていく。

地上に出ると、結晶の放つ光から星空の反射する光が支配する夜の空間へと変わった。

受付のあるテントに向かう。

......誰もいない......。

まぁいいかと、門の方へ向かう。

......まじですか......。

門は閉じられていた。

迂闊だった。視界の悪くなる夜は、盗賊や不審者の侵入を防ぐために門を閉めるのは当たり前のことだ。

私の統治する世界では危険分子は殆ど排除されており、民草の欲を満たすことと厳密な規制等のルールのバランスを上手くコントロールしているため暴動など殆ど起こらない。(偶に自分の力を過信し思い上がる馬鹿が騒ぎを起こすことがあるが、直ぐに治安維持装置により鎮静化される)区画という場所を区別するための名称は存在するが、その場所その場所を隔てる壁は必要ないため存在しない。(実験施設などの危険な施設は被害縮小のための壁が存在しているが、住宅のある行動拠点ステーションとは別の行動拠点ステーションに存在、密集していることが多いため今回は考慮しない)

故にこの世界の者達が"夜になったら門を閉める"という自衛行動を取るということに考えが及ばなかった。

......まぁ飛び越えれば済むことなんだが......。

と、いうわけで飛び越えさせてもらいますか。

探査球体ドローンを打ち上げ、人の目がつかなそうな場所を探る。

壁上に見張りの兵が何人かいるが、問題はないだろう。この暗さだ。まず人の目には見つからないだろう。

いい感じの場所に移動し浮遊して壁を越える。位置はちょうど街の東側だ。

壁の内側に沿ってゆっくりと降り、そっと地面に足を下ろす。

降りている最中にこの付近の景色を、周辺警戒をしつつ見ていたのだが、この街に入って見てきた街並みとは違う雰囲気を漂わせている。時間帯にもよるかもしれないが、最初に見てきた街並みを"活発"や"盛況"と表せるのならば、ここら一帯は"静止"や"閑散"と表現できる、その様な場所だ。

ここからだと、冒険者ギルドや酒場等がある場所の明るさが、どれだけ明るいのかがわかる。それほどまでにここは暗い。星の光により慣れればなんとか見える程度だが、ここらを夜に出歩くのは危険だろう。

それに殆ど全ての建物が木材だけで建てられているようだ。

加工されていない木材を地面に直接接触させていたら、天候等により結果的に腐っていくのは当たり前であり、見渡せる範囲にある(家と呼べるかどうかわからないので)木造建築の、土台として地面に触れている木材は変色し腐っている物や腐り始めているものが殆どだ。

レーダーにより、木造建築の中に"人"を感知していることから恐らく......いや、確実に低所得者層の住んでいる地域スラム街なのだろう。

そのような場所の中を、冒険者ギルドのある方角へ歩いていく。

ゼロは装備しているヘルムにより気付けなかったが、この辺りの空気は最悪と言っても過言ではないくらいに様々な異臭が混ざり合い、免疫のない者が嗅いだら胃の中の物を確実にリバースする悪臭もはや兵器が漂っていた。


•••••


スラム街を抜け——スラム街と呼べるか呼べないかの厳密な区別がされていなかったため、建築物の見た目で判断した——冒険者ギルドに近づいていくにつれ人の姿をチラホラ見るようになってきた。顔が赤かったり、言動がおかしい人達は恐らく酒場等で飲んできたのだろう。道の端で船を漕いでいる者もいる。

全く緊張感のない光景だ。スラム街のことを含めると、治安が良いのやら悪いのやら判断し辛いな。

冒険者ギルドに到着した。

周りの酒場同様に明るい光が......光?

ふと疑問に思い、光源を探すように周囲を見渡す。光は確かに様々な建物から漏れているが、それだけではなく道の端々にあった街灯の様な、細長い棒の上部にある金属でできたアーチの中にある石?からも漏れ出ていた。

前にも思ったことだが、この世界は少なくとも——私から見て——発展しているとは言い辛い。しかし彼等には魔法という技術が存在しており、その力は我々の持つ技術を凌駕しているものが存在している。

話を戻すが、今見ている物が"街灯"だとしたら、光エネルギーに変化させられるエネルギーは何を使っているのだろうか。

かつて我々の母星だった、失われた惑星"地球"にも過去に街灯が存在していたが、天然ガスや水銀を含んだガス等様々なガスによる物や、電子の衝突による発光等の技術が用いられていた。だがこれらは前提として、光エネルギーに変化し得るエネルギーを持つ物質等の存在と、それらを使いこなすだけの技術があったからこそ出来たことなのだ。

あの街灯はとても気になる。発光の強さと色が違うが、もしかしたらダンジョンにあった発光する結晶と同類の物かもしれない。

もし何処かで売っていたりするのなら是非とも欲しいものだな。

街灯から目を外し、冒険者ギルドのドアを開ける。

中には殆ど人がいなかった。2人のギルド職員が受け付けで暇そうに書類仕事をこなしていた。

討伐部位の買取をしてもらうために受け付けへ向かう。

2人は私が声をかけるまで気付かなかったらしく、私が声をかけるとびっくりした顔をした。


「こんな時間に済まない。討伐部位の買取をお願いしたいのだが」

「!」

「!......あ、えぇ、わかりました。......此方のプレートに載せてください」


木材でできたプレートを出してきたので、ゴブリンの耳がいっぱいの袋を4つ、どっさりとプレートに載せる。

杖は4本あるが、これは研究用だ。


「全てゴブリンの耳だ。全部で155個ある。確認して欲しい」

「......155個......全部ゴブリンの耳......」

「......」


フリーズしていた。担当している受付嬢だけでなく隣の受付嬢も。

ん?今気付いたが、担当してくれている受付嬢はダンジョンに行く前に買い取り制度について説明してくれた受付嬢だった。

それに隣の職員は、貴族の少年に絡まれていた受付嬢可哀想な人だった。貴族の少年が名前を叫んでいたが、忘れた。


「あの、どうかしました?」

「いえ!ただちょっとびっくりしただけで......えーっと......数を確認しますので少々お待ち下さい。......カレン!ちょっと数えるの手伝って!」


大量のゴブリンの耳を凝視したままフリーズ中の、もう1人の受付嬢カレンに2袋渡すと黙々と数え始めた。


•••••


2人共数え終わったようで、終わると共に盛大なため息を吐いた。確かにため息の出る作業だったが、乙女が人前でその様な態度でいいのか。


「お待たせしました。数の確認が終わりました。ゴブリンは1匹につき銅貨5枚ですので、今回は155体の討伐でしたので、銀貨7枚と大銅貨7枚と銅貨5枚になります。お確かめください」

「あぁ、ありがとう」


これだけの量狩っても大した額にはならないのだな、なんてことを考えながら報酬を受け取った。

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