第13話 ダンジョン 1-2

まっすぐに伸びる幅が3mほどの通路。ゼロはその通路を1人で進んでいた。

ダンジョンの入り口から、先ほどの冒険者達がたむろしていた空間のように明るくはないものの、慣れてしまえば問題なく見渡せる。もっとも、多数のレーダーを搭載した装備のゼロには明るさなど無くともまるで問題無いのだが......。

しばらく進むと道が2つに分かれていた。一応マッピングはしているが、念のため右の通路を優先して進むことにする。

薄暗い空間を1人で進んで行く。

今のゼロの装備は、いつもの強化外骨格アーマー一式に黒いフード付きマントだ。武器は、使い慣れている銃器を使いたいのだが、何処で誰が見てるかわからないために使えない。ならばと、考えに考えた末に至った答えがこれである。

それは黒く、硬く、そして長い形状をした......棒。そう、棒である。見た目は何の変哲もない棒なのだが、ただの棒ではない。この棒は物質変化装置ランプを使用して製作した棒なのだが、"材質そのもの"が物質変化装置専用物質ナノマテリアルなのだ。つまり、この棒そのものが物質変化装置専用物質ナノマテリアルであるため、物質変化装置ランプを使用すればいつでもその形状を変えることが出来る。他の武器を製作することも出来るし、別の何かを製作することも出来る。正に万能な武器なのだ。決して、これが一番楽そうでいいなと、考えるのを放棄した訳ではない。

それと、この棒の名前は"マゴリア"にした。毎回毎回"棒"だと腑に落ちないのだ。由来は、どんな形にもなることから"変幻自在"で、英語でPhantasmagoriaと書くのだが、長いので"マゴリア"にすることにした。

そういう理由からこれらが今の装備なのだ。

っと......レーダーに生命体の反応......数は5か。この形状だとゴブリンか?

前方からゴブリンが5匹。ダンジョンで初のモンスターだ。前衛の剣を使うゴブリンが3匹、後は弓を持っているのが2匹。

他に何かいないか、念のためレーダーでもう一度確認するが、どうやらこいつらだけみたいだ。

ゴブリンは輸送艦カルツァーに十分な数のサンプルを送ってあり、足りなくなれば周囲の森から補給すればいいので、ゴブリンにもう用はないのだ。

ちんたら戦闘するのは時間の無駄だな。......さっさと片付けるか。

ゴブリン達はまだ此方には気付いていない。これ幸いにとマゴリアの先端をゴブリン達に向ける。

物質変化装置ランプを起動する。作るのは前回も使った暗殺用ハンドガン"ラフマン37EL"で、マゴリアの先端だけをラフマン37ELにする。この武器でこれだけの距離離れていれば、余程聴覚が良くない限りは大丈夫だろう。少々撃ちにくいが、これなら誰かに見られても"不思議現象魔法"ということで片付けられる。先端はラフマン37ELだが、マゴリアには特に凹凸は無く、最初と変わらず見た目はただの"棒"のままだ。

弓持ちに狙いを定めて撃つ。

前回同様にゴブリン達は、自分達に何が起こったかわからずに死んでいった。

ゴブリンの死体に近づき、討伐部位である右耳を製作したナイフで切り取る。

ギルドは恒常的に、討伐依頼の出ていないモンスターでも、討伐した証拠となる部位をギルドに提出することで報奨金を出すと、ギルドの受付嬢が言っていた。

部位を入れるものは持っていなかったので製作しようかと思ったが、倒したゴブリンが袋を持っていたので其方を使うことにする。

ゴブリン達が持っていた荷物は武器と服くらいで、他にめぼしい物もなかったので先に進むことにする。


•••••


あの後、前衛3の後衛2の5匹一組のゴブリンパーティーと3回遭遇したが、最初と同じ様に瞬殺して終わった。

そして今現在、5組目となるゴブリンパーティーを倒したのだが、このパーティーの構成が今までに遭遇してきたパーティーと違い前衛が4匹で、役職不明なゴブリンが1匹いた。

今までの前衛ゴブリンは剣や斧といった武器を使っていたのだが、今回のは全員片手剣にラウンドシールドと統一されていた。そして役職不明なゴブリンだが杖を持っていたことから魔法を使えたのかもしれない......。だとしたらかなり勿体ないことをしてしまった。折角実験体のサンプルが手に入るところだったのに......。

まぁ仕方ないか。次があれば捕獲しよう。

......だが捕獲したらしたでどうやって地上まで運べばいいんだ?モンスターを生きたまま地上に出していい......わけないか......。

その時になったら考えるとしよう。

倒した5匹の部位を切り取っていく。今までは、ゴブリン達の装備していた武具類は粗悪品が多かったため持ち帰る価値は無かったのだが、この杖は一見ただの木製の杖だが、何かの役に立つかもしれないということで取り敢えず持ち歩くことにした。

左の腰に杖をぶら下げる形で装備する。これで一応邪魔にはならないだろう。


•••••


その後も多くのゴブリン達と遭遇してきたが、他の種類や冒険者には会うことはなかった。

時間を見ると午後8時を回っており、ダンジョンに潜り始めてから約3時間が経過していた。

体力や装備的にはまだまだ余裕で探索出来るが、流石の私もゴブリン狩りには飽きてきた。

私の腰にはゴブリン達を狩った証明となる、討伐部位の右耳が入った袋が4つぶら下がっており、右耳の数は既に100個を超えている。更に左手には紐で一括りに纏められた4本の杖が握られており動きづらいことこの上ない。一度地上に戻って換金してこようかと考えたのだが......考えているうちにここまで来てしまった......。

魔術師かもしれないゴブリン達については、拠点周辺の森などを調査して、生息していないのならばダンジョンから連れて行くことにした。

......それにしてもどれだけ広いのだろうか。今、自動で行っているマッピングでできた地図を見ているのだが、まだ広さの限界には到達していない。

途中下に降りる階段を見つけていたのだが、まだ下には行っていない。まずはこの階層を一周してから、と考えていたのだがこのザマだ。

途中で見つけた少し広い部屋まで戻り腰を下ろす。少し休憩だ。今までの通路と同様に青白くぼんやりと薄暗い部屋だ。

......いい機会だし、前回からあまり時間は経っていないが、進歩状況を聞いてみるとするか。


《→私だ。此方は特に問題はない。現在までの進歩状況を教えて欲しいのだが?》

《←マスター、此方も特に異常はありません。拠点については既に土台及び骨組みの設置が完了しています。現在は壁のパーツを輸送艦カルツァーから降ろしているところです。研究についてはゴブリン被験体の方は既に完了しております。現在は生きているゴブリン被験体を使い、行動パターンや思考パターンを解析し、此方と疎通が出来るかどうかを研究しております》

《→そうか、ご苦労だった。引き続き研究を行ってくれ。そういえば、ゴブリンを回収する時に一緒に渡した液体はどうだ?》

《←それについてはあまり解析出来ておりません。恐らく薬の類いだと思われますが、ゴブリン被験体に使ったところ、小さな擦り傷や切り傷には効果があったようですが、切断された部位の接続や修復はできませんでした。とても実用的ではありません》

《→なるほど......了解した。私からは異常だが其方は何かあるか?》

《←いえ、ございません》

《→わかった。では通信を終了する》


AIとの通信を終えた後、荷物を持って立ち上がる。

さて......此方も頑張るとしますか......。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る