第10話 接触 1-10

辺境の街ポルガトーレへの旅の後半も、前半同様に何の異常もなく進むことができた。

旅の途中は、ケインさん達新たなる息吹のメンバーとの雑談で時間を潰した。

何度かケインさんやガイルさんがシルアさんをいじり、シルアさんの顔が真っ赤になって俯いてしまい、その度に男性2人がクレアさんに怒られるという謎の時間が何度かあった。

だが結果的に皆さん笑っていたので、これもコミュニケーションの一環なのだろう。

そして辺境の街ポルガトーレに着いたゼロは、街に入るための審査を待っている間、自分の視界全てを埋めるほどの巨大な門を見上げていた。

壮観だ......。

探査球体ドローンで街を観察して思ったことだが、辺境の街と呼ぶよりも城塞都市と呼ぶ方のがしっくりくる。

いや、他の街は此処よりも凄いということなのか?

だとしたら見てみたいものだ。

この街には出入りするための門が二つあり、今いる方は南門にあたる。

余談になるが、ケインさん情報によるとこの南門よりも反対側にある北門の方が混雑するらしい。

ここはプリムール王国という国で、ポルガトーレはその領土の最南端に位置しているため、ほぼ中心にある王都や他の街から来る人が多いために北門は混雑するそうだ。

対して、南門を使うのは冒険者か行商くらいらしい。

使う人数が北門より少ないために、ひどいときは北門から南門に回ってくる人たちがいる程混雑するのだとか。

それと数年に一度、南東側で領土が接しているアルモニア王国と戦争になるらしいのだが、攻められにくくするために、北門よりも通路の広さを若干狭く作られているらしい。

一般人が軍事に関わる情報を持っていていいのだろうか......。


•••••


審査は冒険者の村と同様のセリフを使うことで楽々クリアできた。

この街にはしばらくの間滞在する予定なので、定期的に役所で滞在許可証を更新しないといけない。

冒険者の村ではギルドに申請だったが、ここでは役所らしい。運営する主体が違うからだろう。

ケイン達新たなる息吹は、今日は各自の家に帰って休養するとのことなので、ゼロは1人で行動する。

1人で何もせずに待機よりは他人との行動の方が楽しいが、他人との行動よりは1人行動の方が気が楽だと思ってしまうのだが、それは我儘だろうか......?

ケインさん達と別れて、大通りを歩きながら目的の場所へと向かう。

街を中から見て思うが、軍事目的で作られた街というのは正解らしい。

立ち並ぶ家々は、街に侵入してきた敵を内側から向かい打てるようにバリケードの役割をしているものが多く、とても入り組んだ複雑な作りになっている。

まるで迷路のようだ。

もし軍事目的でないのなら、街の外観を保つためにも、商業的な意味でも、整理された作りの方がずっといい。

そんなことを考えながら、また街の人に目的の場所を尋ねながら歩いていくと見えてきた。きっとあれだろう。

冒険者の村でも、中には入らなかったが、建物自体は見ていたのですぐにわかった。

外観は村のとほとんど変わらない作りをしている。

ドアを開けて中に入る。

ロビーには何組かの冒険者達が固まっており、談笑していたり掲示板を見ていたりしている。

私が冒険者ギルドに来た目的は、買い取り制度についての話を聞くことだ。

これから先行動していく上で、資金は多くあればあるだけ良いのだ。邪魔にはならない。

それに鍛冶師との契約で定期的に集まることになってはいるが、商人としてのアンダーカバーを作る上で、ある程度の売り上げも出しておきたい。


「(おい、あれ見ろよ)」

「(うわ......全身鎧にマントとか、どっかのお尋ね者みたいな格好だな)」

「(冒険者か?)」

「(傭兵とかじゃね?)」


やはりこの格好は逆に目立ってしまうのか......。

私的には結構気に入っているのだが......。

先に進む。

受付は3つあるが、その内の2つには先客がいたので、一番左の受付に向かう。

ちなみに受付は全員女性職員だった。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご利用でしょうか?」

「冒険者ギルドの利用は初めてなのですが、買い取り制度についてお話を伺いたく思いまして」

「わかりました。冒険者登録はされますか?」

「いえ、私は商人なので結構です」

「......商人の方でしたか。武装されているのでてっきり」

「よく勘違いされます」

「ふふふ、では説明させていただきます。冒険者ギルドでは——」


受付嬢から、買い取り制度のついでに聞いたギルドのルール的なもので、重要なことは次のことぐらいだった。


【冒険者ギルド規約】

・冒険者ギルドはどのような組織にも帰属しない独立した組織である。

・冒険者ギルドで契約した者を『冒険者』と呼ぶ。

・冒険者ギルドは冒険者に対し、上からS、A、B、C、D、E、Fからなるランクを与え、それを冒険者の実力と、冒険者ギルドからの信頼度とする。

・冒険者は冒険者ギルド又はその他から、自分のランクより一つ上までの依頼を受けることができる。

・冒険者ギルドは冒険者が受ける依頼の報酬の10%を仲介料として徴収し、これを冒険者ギルドの経営資金とする。

・冒険者ギルドは冒険者が起こした又は原因となった事柄等には一切干渉せず、一切の責任を持たない。


一通りの説明をしてもらい、今日のギルドでの用事は済んだので早速ダンジョンに向かおうと思う。

ちなみに冒険者登録はしていない。

柵になりそうなものは極力持ちたくないからだ。

買取制度で聞いた話では、ダンジョンで狩ったモンスターの部位を買い取ってもらえるとのこと。

ある程度のモンスターは拠点に持ち帰ってもらい、研究材料にするつもりだが、量が余るようならば活動資金とするべきだろう。

ということで、数日ダンジョンに潜ることにする。

受付嬢に説明の礼をして出口に向かおうとした時、ロビーで冒険者には見えない服装の少年が、ギルド職員の若い女性の腕を掴んでいるのが見えた。


「やめてくださいっ!」

「いいじゃないかカレン!君は僕の側室になるんだから」

「いやですっ!だから離してくださいっ!」

「なんでだよ!僕は、僕は貴族だよ!今の暮らしよりも幸せになれるんだよ!」

「そんな幸せはいりません!やめてください!」

「っ!......このっ......⁉︎」


女性職員が拒絶するのが気に入らなかったのか、少年が空いている手を挙げ、女性職員に振り下ろそうとした。


「そこまでにしていただこう!ダイン殿、ここは冒険者ギルド、そういった行為は控えてください!」


貴族の少年と受付嬢のやり取りを聞きつけてやってきたのだろう。

2階から壮年の男性が大声で怒鳴りながら階段を降りてきた。


「......ギルドマスター。貴方に何の権限があって僕の——」

「でないとこの件は領主様にご報告しなくてはいけなくなりますが?」

「......チッ......(いつか痛い目に合わせてやる)」


貴族の少年はギルドマスターなる壮年の男性を睨みつけると、女性職員の手を乱暴に突き放して、ドカドカと音を立てながらギルドから出て行った。

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