第9話 接触 1-9

リィラの店にブロードソードを納品した。

うまく商品と客を捌くことができるか不安だが、定期的にハクが店に訪れるので、一応は大丈夫だろう。

そろそろ予定していた乗合馬車の出発時間なので、集合場所へと向かう。

乗合馬車は、乗る側と降りる側で混雑するためか、単に村の中にスペースがないのか、それとも両方なのかはわからないが、村の門の前にある広場を集合場所として指定されていた。

門番に身分証を返して村を出ると、村の前の広場には、乗合馬車に乗るのであろうたくさんの人と、5台の乗合馬車が停まっているのを確認できた。

馬車を引くのは、後ろ足が馬の様な蹄を持つ形状、前足は肉食獣の様な爪を持つ形状、頭部が鷲の様な形状で、その巨体に似合うだけの大きさの翼を持つ生物だ。

伝説上に伝わるヒッポグリフに似ている。ヒッポグリフと呼ぶことにしよう。

現在は馬車に繋がれておらず、辺りの草を食べているヒッポグリフを眺めながら、乗合馬車に乗るために待機している群衆の方へ歩いて行くと、新たなる息吹のガイルさんが此方に気づいたようで、手を振ってくれた。

見た所、乗る人達はそれぞれの馬車に乗るために列を作っているらしく、すでに大半の馬車が満員扱いになっているようだった。

これは彼らと同じ馬車には乗れそうにないな。

空いている馬車の列に並び、搭乗時間になるまで待機する。

乗客は、そのほとんどが冒険者らしい人達で、皆腰や背中に武器の類と思われる物を身につけている。フルプレートはちらほらいるが、ゼロのようにフルプレートの上からフード付きマントを着ている者はいない。

......前々から思っていたことだが、私の格好はかなり目立つのだな......。

冒険者の何人かが此方をチラチラと伺っている。


「(おい、誰だあいつ)」

「(知らねーよ。お前聞いてこいよ)」

「(マント着てて全部は見えねぇけど、あのフルプレートは絶対高値のものだろ)」

「(あれの素材は何なんだ?金属には見えねーけど)」

「(貴族のボンボンか?)」

「(ボンボンがわざわざこんな辺境に来るか?)」

「(だとしたら有名な冒険者か?)」

「(あんな目立つ格好してて有名なら誰か知ってるんじゃないか?)」

「(実力ある冒険者はほとんどが王都の貴族に抱えられてるんじゃないか?こんな辺境まで来て稼がなきゃならないのは俺たちのような弱者くらいだろ)」

「(それは言うなよ。みんな気にしてることだぞ)」

「(ヘルムの下はどんなかしら?)」

「(あんたねぇ......いくら婚期を逃してるからって、見境なく男に興味を持つのはやめなって言ったでしょ)」


色々な憶測が小声で飛び交っているが、すべての音を確実に捉えているため、会話がだだ漏れになっている。

しかし会話を聞いていると、真実かはわからないが、面白い情報があったな。

冒険者は実力者ほど国の中心である王都に集まるのか......。

前線である辺境とかでは戦わないのか?

でも考えてみれば当たり前のことか。

資金を稼ぐために冒険者をやっているのならば、より安全で金払いのいい貴族の元に行くのは当然か。

だが冒険者ギルドにしてみれば、自分達の戦力を奪われていることになるのか?

いや、ギルドが国の一つの機関であるのならば......今は情報が少ない。

おいおい調べていくとしようか。


•••••


搭乗時間になったようで、ヒッポグリフが御者によって馬車に繋がれ、並んでいた冒険者達が賃金を払っている。

私も賃金、大銅貨3枚を払い乗車する。

御者がヒッポグリフに合図を出して、馬車が動き始める。

馬車1台にはだいたい10人が乗っているようだ。

ゼロの乗っている馬車には、ゼロ以外に戦士職と思われる格好をした人が8人、内男性が7人いる。

魔術師と思われる格好をした人は1人で、薄灰色のローブに、それなりに大きい帽子、所謂魔女帽子を被っている

(おそらく)女性を合わせて計10名が乗合馬車に乗っている。

ヘルムを被っているため、誰もゼロの視線には気付かないので遠慮なく周りの人達を観察しているが、魔術師以外にこれといった特徴はなく、今のところ興味はない。

仲間なのか、迷惑にならない程度の音量で会話をしている人が2人いるが、それ以外は俯いて寝ているか、ゼロ同様に周りの人達を観察しているかしているようだ。ゼロも何人かに見られている。

観察に飽きたので、周りの景色を眺める。やることがなく、あっても情報漏洩防止のためにほとんどのことができないこういう時間がとてもしんどい。

時間を進められたらな......。


•••••


ポルガトーレと冒険者の村......そういえば村の名前を聞いてなかったな。今度ハクに聞くか。

で、街と村のちょうど中間地点であるこの見晴らしの良い平原に設けられたキャンプ地点に着いた。

道中はモンスターに襲われる事なく進む事ができた。

ヒッポグリフは馬が引く馬車と比べてなかなかに速かったが、キャンプ地点に着くまでに3時間はかかった。

正直、馬車が走り始めたくらいの時間から暇だったため、3時間ずっと暇していた。

この時間で出来ることはたくさんあるはずなのに、何もしてはいけないという地獄の時間だった。

こんな事なら道中モンスターに襲われて格闘している方のが楽だ。

意外だったのが、同席している冒険者達が話しかけてこなかった事だ。

誰かしら話しかけてくると思っていたため、ある程度の問答を予想して、設定を作り上げていたのだが......どうやら無駄に終わったようだ。

いや、もしかしたら中間地点から街に向かう時に話しかけてくるかもしれないな。

話が途切れないよう、深入りしないよう頑張らなくては!

ゼロは心の中で一人芝居を始めていた。

......察してくれ......暇なんだよ......。

馬車を降りる。

冒険者達は仲間同士集まって昼食の準備をするようだ。幾つかのグループができている。

周りを観察していると後ろから声をかけられた。


「一緒にどうですか?」


ケインさんだった。

少し離れたところに他のメンバーが座って昼食の準備をしている。


「いいのですか?有難うございます。ですが、私はもう既に昼食は済ませてありますので」

「早いですね。馬車の中で済ませたんですか?」

「えぇ、まぁそんなところです」


その後、形だけでも、と誘われたので食べはしないが会話をするために同席する事にした。

ケインさんに連れられて近づいていくと、気付いた方から順に挨拶してくれた。

だいぶ打ち解けられたみたいで良かった。

よく見れば、人体修復万能装置医療用ナノマシンを使い助けた少女もいる。

顔を向けると顔を赤くして俯いてしまった。


「シルア、ちゃんと挨拶しないと。高価なアイテムを使ってまで貴方を助けてくれたんだから」

「......わかってる。その......助けてくれて......ありがと......」


恥ずかしいのか、声は小さかったが身体の調子が良くなっているようで良かった。

しかし高価なアイテム?人体修復万能装置医療用ナノマシンのことか?

......だとしたら少しまずいな。

確かにあれは、体内に入れるものとして、厳しい検査をクリアしないといけないため、他の物よりは製造に時間がかかるがそこまで高価ではない。

それがこの世界では高価になるのか。

口止めしておいたほうがいいのか迷うな。

この世界の事、特に魔法の事などの大量の情報を集めるにはこの世界で有名になるのが一番だが、中途半端に有名になるとちょっかいを出してくる者が必ず現れる。

力ずくで潰していく事もできるが時間と労力の無駄だ。

となるとこの世界で通用する、強力なバックアップを用意する必要がある。強国の王族か貴族、または豪商や領地持ち。

どれがいいのかはまだわからないが、まずはコネクションを持つ事が重要だ。

ケインさん達には口止めしておくか。


「はい、助かってよかったです。それとケインさん。今回起こった事は他言無用でお願いします。これはメンバー全員に徹底してください」

「それは理解しています。商人の方が得られる利益を放棄してまでしてくれたことですから、無闇に他人には話せませんよ。それに私達も商人に『恩を仇で返すやつら』なんてレッテル貼られるのは嫌ですから」

「理解してくれているようでよかったです。それで......」

「クレアの魔法ですね?クレア、準備は大丈夫かい?」

「ええ、大丈夫よ」

「では、彼方にある森の中で行いましょう。いきなり魔法を放ったら、他の人に迷惑ですから。それに時間もあまりないので」


•••••


ケインさん、ガイルさん、シルアさんの3人はキャンプ地点に残り、クレアさんとジンさんが森に同行してくれた。

今はクレアさんの放つ火属性の魔法を観察している。

クレアさんの出している火だが、魔力と言われるものをエネルギーとして消費しているので、魔力が保っている間は水中でも燃え続けるらしい。

魔法を使うには魔力が必要になるとクレアさんが言っていたが、魔力というものがイマイチよくわからない。

ヘルムの様々な機能を駆使しているが、その実態を捉えることができていない。

全くの未知だ。

拠点か輸送艦カルツァーにある専用の実験装置ではわかるかもしれないが、今は無いので仕方ない。


「どうやったら魔法を使えるようになりますか?」

「んー、魔法は生まれた時に持ってる魔力量によって、使えるか使えないかが決まるし、あとは優秀な師か魔導書に出会えるかで決まる......ゼロさんは生まれた時はどうだったんですか?」

「私は生まれた時、魔力を計らなかったもので......。今魔力があるかもわからない状態でして」

「今の魔力量は冒険者ギルドか魔術師ギルドで測れますよ?」

「そうなんですか......機会があれば試し目みたいです」


•••••


魔法の実演をしてもらい、十分にデータが取れたので、それを拠点にいるAI達に転送する。

そろそろ出発の時間ということでキャンプ地点に戻ると、冒険者達は昼食の後片付けをしている最中だった。

ケインさん達が此方へ歩いてくる。


「もうそろそろ出発するようです。クレアの魔法はどうでしたか?」

「近くで見ていましたが、すごい迫力でした。それに解説がとてもわかりやすかったので参考になりました」

「それはよかったです。あ、搭乗し始めましたね。私達も行きましょうか」

新たなる息吹と同じ馬車に乗り、雑談をしながら時間を潰しながらポルガトーレへと向かった。

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