第8話 接触 1-8

鍛冶屋であるリィラとの取引内容と、私的な頼み事をAIに伝えてから休息をとった。

今日はポルガトーレに向けて出発する日だ。

今はだいたい5時くらいの時間だ。日が昇り始めるがまだ薄暗いような、村の人たちが起きてくるにはまだ少し早い時間帯。

宿をチェックアウトしてリィラの仕事場へ向かう。

今朝は少し冷え込んでおり、大通りには少し霧がかかっていて少し空気が湿っている。

全く人のいない大通りを1人で歩いていると、そっと後方から一台の馬車が近づいてくる。

私は気にせずに目的地へと向かう。その馬車は私の後ろにつくと、私と同じ速度に合わせる。

......念のためではあるが一応確認しておく。

歩きながらレーダーを使う。表示したマップに、自分と重なるように1つの識別番号シリアルナンバーが表示された。やはり身内のようだ。

馬車での登場ということは、依頼していたものを早速届けてくれたようだ。仕事が早くて助かる。

御者兼取引役は男性型の自立歩行人形オートマタにしたのか。黒いタキシードが紳士な外見になかなか似合っている。年齢は50代くらいの設定かな?髪色は綺麗な白でオールバックに仕上げているようだ。

外見は紳士な老人男性だが。正体は自立歩行人形オートマタだ。

この世界には魔法というものがあるから具体的にはわからないが、村にいる人々にはこの自立歩行人形オートマタに肉弾戦で勝てる者はまずいないだろう。それに、自立歩行人形オートマタ達には基本的に装備されている武器もあることから、武器を持った者達からの襲撃にも耐えられるだろう。

目的地に着いたので、自立歩行人形オートマタ......名前があったほうがいいな。


「名前は持っているか?」

「いえ、持っておりません」

「では名前を与える。この世界にいる間はそれを使え」

「了解しました」

「では、与える名前だが......ハク。お前の名前はハクだ」

「有難うございます。このハク、完璧に任務をこなしてみせます」

「うむ。では、鍛冶屋の主人と顔合わせをしようか」


店を営む者達の朝は早いようで、私達がリィラの店に着く頃には、店を開け始める者達が現れ始めた。

しかしまだ眠いのか、欠伸をしたり目をこすりながら作業をしている。

リィラの店はまだ開いていないが、建物内をスキャンすると動いている者がいるので、おそらく彼女だろう。

だんだん近づいてくるので、タイミングよくドアをノックする。

リィラも気づいたようで、そっとドアを開けてこちらを伺うように見る。


「だれですか?」

「私です、ゼロです。リィラさん、おはようございます」

「あ、ゼロさんですか?今開けますね」


ドアを開けてもらい、入るよう言われたが、まずはハクの紹介からだな。

リィラも私の後ろにいる人物に気が付くと私を見てくる。


「リィラさん、こちらはハク。定期的にあのブロードソードを納品する者です。売り上げの代金は彼に渡してください」

「ハクと申します。これから商売仲間としてよろしくお願いいたします」

「リ、リィラです。その、よろしくお願いいたします」

「というわけで、お互い協力していきましょう。後ろの馬車に今回の納品分が積んであります。確認しますか?」

「う、うん。確認する」


リィラが確認するので、馬車の荷台のカバーをめくる。中には私がAIに渡した設計図通りに仕上げられた漆黒の鋼鉄製ブロードソードが20本並べられていた。実用性に特化した形に、硬く、強靭な分子構成にしてあるために、品質は最高級と言っていいだろう。

そんな漆黒の剣が20本。冒険者からしたらすぐにでも手に入れたい物だろう。


「すごい......凄すぎる。こんな......均一に」

「リィラさん?その剣についてなんですが......今は聞こえませんか......」


リィラは剣を見るなり表情が一変し、剣を触りだした。それにブツブツと独り言を言いだした。

私は知っている。

こういう者達は一度ハマりだしたら、なかなか戻ってこない人種だ。気の済むまでは放っておこう。

リィラが1人思考世界に入っている間、ハクとこれからのことについて話す。

まぁ納品量と周期について話すだけなのだが。

だがまずは様子見だな。

まずは冒険者達にこの剣のことと、リィラの店で"しか"買えることを宣伝しなくてはいけないし、その後の動向も調べなくてはいけないからな。

今回は20本納品したが、場合によっては増量することも視野に入れておいたほうがいいかもしれない。

だが増量についてはリィラが作った武器の売れ行きも考慮しなくてはいけないな。逐一ハクから報告してもらうことになる。

それにもう一つ、ハクにはリィラに囲い込むだけの価値があるかを調べてもらうことになる。

有能であるのならば、他の者に取り込まれる前に動く必要がある。

それに信用問題もある。

すでに取り込まれている場合、背後関係を調べないと危険だ。

これは重要な任務だ。

そんなことを含ませた会話をし終わる頃、リィラが思考世界から戻ってきた。


「満足していただけましたか?」

「うん、だけどわからないことだらけ。鋳物じゃないのになんであんなに均一な形にできるの?」

「さぁ?私は鍛冶師ではないのでわかりかねます」

「あの剣を作っている人には会える?」

「......今は無理でしょうね。彼も忙しいですから」

「そう......そうだよね」

「まぁまずは剣を中に運びましょうか。話はそれからですね」


剣を運び終え、話をするため店の奥にあったテーブルに3人が座る。

作りが頑丈なのか、重いアーマーを装備した私や、身体自体が重いハクが座っても音を上げない椅子には驚いた。ちなみに木製のようだ。魔法的な何かがあるのだろうか。大変興味深い。


「で、話ですが、単刀直入に言うと、剣を売る相手は冒険者限定にすること、数は1人1本まで、というのを徹底してもらいたいのです」

「ん?そんなこと?言われなくてもそうしたけど」

「......そうでしたか。これは失礼しました」


何故?と、理由を聞いておきたいが、これは相手の職人気質な理由から不和を招く恐れがある。これはやめておこう。


「あとは、一応毎週納品予定ですが、此方の職人の理由により納品量が変わることがあるかもしれない、くらいですね」

「ウチも体調や気分で作る量が変わるから、そこは理解できる。......話はそれだけ?」

「えぇ、それだけです。これから、よろしくお願いします」

「うん、よろしく」


その後、少しこれからのことについて話をして店を出た。

時間的にちょうどいい。もうすぐ乗合馬車が出る時間だ。

村を出て乗合馬車が集まる広場へと向かう。

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