第6話 接触 1-6

乗合馬車に乗るための運賃と、今後必要になるかもしれない資金を得るために、武器を売ることにした。

この村には1軒だけ鍛冶屋がある。だが鍛えられた武器は必然的に高値になるため、たいていの冒険者はそれに手をつけようとはしない。鋳物武器の方がコストパフォーマンスが良いからだ。

故に鍛冶屋には客が1人も見当たらない。

潰れるのは時間の問題だろう。

弱肉強食。その基準は時代や場所によって異なるが、強者が弱者の上に立つということは、どんな時代でも、どんな場所でも存在している。自然の摂理だ。

本来ならば私も、いつ潰れてもおかしくはないような店に肩入れなどしない。だがその鍛冶屋には、私の目を引くものがあった。

マントの中で物質変化装置ランプを起動、物質変化装置専用物質ナノマテリアルを使用し業物の武器を作る。作るのは漆黒に染めた鋼鉄製のブロードソードだ。作るのは1本だけ。

うまく作れたのを確認して店の中に入る。


「誰かいますか?」


少し暗い。それはこの店の現状を表しているような感じを醸し出している。

店の中は正にザ 武器庫と言っていいような内装で、壁にも床にも武器が置いてあった。

そしてショーケースの中に私の目を引いた武器もある。

カン!カン!と奥からおそらく鍛金しているのだろう。人手不足なのかもしれないが不用心過ぎないか?


「あのー!誰かいますか!」

「はーい!ちょっと待ってください!」


ドタバタと駆けてくる。バンッ!とドアが思い切り開き、この店の人物が姿を見せる。


「......この店の主人をよ——」

「ウチがここの主人です!」

「......それは申し訳ありませんでした。謝罪します。」

「え?いや、うん......わかった」


なんとこの店の主人は少女だった。確かに金槌を振るっているだけあって少しは筋肉質と言えるが、身長はだいたい150cmくらいしかない。

主人だったことを知った時少しは驚いたが、謝罪したら驚かれた。何故だ......。

何故驚いたのか聴いてみたかったが、もう遅い時間なので本来の目的を優先する。


「この品を見て欲しいのですが」


そう言って先ほど作ったブロードソードを出す。


「ウチでは買取はしていませんよ?」

「まあ見てみてください」


ブロードソードを手渡して、少女が評価を出すまで店内を見渡す。ここにある全ての武器が、この少女の手によって作られたのならば、それは驚くべきことだ。値段は平均金貨2〜3枚といったところか。それにショーケースの中のあの武器。少女の自信作なのだろう。値段は金貨20枚と、他の商品と比べるのは失礼にあたるほどかけ離れている。

見終わったのだろうブロードソードを返してくるので受け取る。


「どうですか?」

「......かなりの業物ですね。とても強く鍛えられたのがわかります」

「ちなみに貴方がこれを売るとしたらいくらほどにします?」

「......何が目的?」


おっと、警戒させてしまったようだ。


「協力して欲しいのです」

「協力?」

「取引、とも言えるでしょうか。このブロードソードをこの店で販売して欲しいのです」

「いいけど、ウチのメリットは?」

「この店の収入アップ」

「話して」


おお、いい食いつきだ。やはりここでは経営は困難なのだろう。

なんだか悪いことをしている気分になるが、まぁ構わんだろう。


「話す前に、貴方ならこのブロードソードにいくらの値をつけますか?」

「ウチなら......金貨5枚にする。この剣にはそれだけの価値がある」


話しているうちに話し方が変わっている。こっちが本来の話し方なのだろう。順調に打ち解けてきているみたいで良かった。

それにしても金貨5枚か。この村の武器屋で売っている鉄製のブロードソードは銀貨7枚前後だった。約7倍の値段だ。少しやり過ぎたか?まあ品質が良いと認められたのだから、それはそれで良いか。

さて、爆弾を落とそう。


「なるほど。では話を戻しますと、売れたブロードソードの6割を私が、残りの4割を貴方が納めます」

「ぇえっ⁉︎4割も?私は剣を店に置いて売るだけだよ。いいの?」

「はい。それで構いません。でも、ただ普通に売っても、客は鋳物武器へと流れてしまいます。なので、値段を下げます」

「いくらにするの?」

「金貨2枚」

「っ⁉︎金貨2枚⁉︎そんなに安くするの?それで大丈夫なの?」

「はい。それで大丈夫です。それで明日から私の代わりの者が、このブロードソードと同品質のブロードソードを定期的に収めに来ると思うので、それまでに売れたブロードソードの6割の代金を収めるようにしてください。私が売るこのブロードソードのことが冒険者に広がれば、必然的に貴方の作る武器も売れるようになるでしょう。私も売る場所と手間をかけずに済むのでとても助かります」

「......」


何か悩んでいるのか、難しい顔つきをしている。鍛冶屋としてのプライドでも刺激してしまったか?仕方ないな。


「ここで店を続けていくために必要なことです」

「わかってる!」


すごい目つきで怒り、睨んでくるが、全く迫力がない。

しばらく悩んでいたのだが、突然こっちを振り向いてきた。


「わかった。それで契約完了な!」

「では、そういうことでお願いします。ブロードソードは明日から納品させてもらいますね。申し遅れましたが、私はゼロといいます」

「ウチはリィラ。よろしく!」


そう言うと、白い歯を見せてにっこりと笑った。

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