第1章【産み落とされた悪魔】偏

第1話 接触 1-1

見渡す限りの緑。

大小の雲がポツポツと浮いており、空の青と雲の白の2色だけの美しい空。

ふと視線を落とすと、控えめではあるが可愛いと言えるような見たこともない草花が生えており、流れてくる風に吹かれて揺れている。

雨が上がった後であり、風に吹かれるたびに水滴のついた草花で覆われた草原はキラキラと輝いて見える。

少し歩いた距離には、人が入る事を拒絶するような壮大な存在感を醸し出している森。

そんな景色を全身黒一色の強化外骨格アーマーを装備した1人の男が目を輝かせているように眺めている。

この男にとってこれらの景色はまさに未知の塊であり、すぐにでも手に入れたいほどの知識の塊であった。

この惑星、この地に住む者からすれば、男は異世界人にあたる。

男はこの星を人類の新たな故郷にできるかの見極めと、自分の持たない新しい知識を得るためにこの地に降り立った。

この星の住人からすれば完全に侵略者である。


《←マスター、全ての輸送艦カルツァーが集結しました》

《→あぁわかった。早速この丘の上に建設し始めてくれ。索敵は常に行え。異常があればすぐに知らせろ》

《←了解しました》


AI大和から連絡が入った。

今男の立っているこの丘は、周りに広がる草原と近くにある森を見渡せるため、索敵を行うのに適した場所と言える。

一見この丘には1人の男しかいないように見える。

だが、よく目を凝らして見ると、男の上空の大気が歪んで見える。

今この空は、幾つもの巨大な輸送艦カルツァーで覆われているのだ。

周囲の動植物の調査と研究はAI達優秀な部下がやってくれるし、取り敢えず歩くか。

丘を下り、森の方へと向かいながら物質変化装置ランプを起動しフード付きのマントを作り、強化外骨格アーマーの上から着る。もちろん色は黒だ。

強化外骨格アーマーは、飛行、通信と索敵の機能があるが、それほど大きく分厚いものではないため、上からマントを着ても違和感はない。

物質変化装置ランプとは強化外骨格アーマーに内蔵された物質変化装置専用物質ナノマテリアルを使用し、様々な形の物体を作成可能な装置だ。

物質変化装置ランプ本体は人体の脊髄より上部の延髄を呼ばれる場所に埋め込まれている。

森の中に入る。

似ている形の植物はかつての故郷にも存在していたが、やはり未知のものばかりで新鮮だ。

今まで様々な惑星を見てきたが、ここ数十年は未知のものを見つけられていなかった。

やはり初めてのものはいいな。

こう、ワクワクする感じが心地いい。

お?この植物は微力だが光を発しているな。何か特殊な液体でも生成しているのか?これも調査対象だな。

言うなればこれは宝探しだった。

だがそうなるのも仕方ないことだ。

男には確信があったのだ。

ここある全てとはいかないだろうが、幾つかは必ず自分達の持つ技術の発展に繋がると。

それに近い将来、男の支配している世界エデンに暮らしている民草がここに移住して来る時までに、何に害があり何が無害なのか知っておく必要性がある。

森に入って500mは進んだだろうか。

大きな木々が密集しているせいか、まだ十分に明るいが段々と差し込む光の量が少なくなってきた。

うん?小動物か?

索敵に複数の生命体反応がある。

まだ目視はできていないが、体長は130cm程で2足歩行、人型の生命体のようだ。

金属品を持っているな。現地人か?

フードを被り不可視化する。

近づくにつれて、段々と生命体の話し声が聞こえてきた。


「ガウガガギ、グガ?」

「ギギグガ」

「ガ、グゲグ」


......あれで話が通じるのか......すごいな。

十分に会話?が聴き取れる距離まで近づき、念のため茂みに体を隠す。

探査球体ドローンを起動する。

探査球体ドローンが浮遊し手から離れ、上空から目標を捉えて撮影し始める。直ぐに映像が流れてきた。

暗い緑色の肌にボロボロの服を着ていて、剣を持つ者や弓を持つ者もいる。

装備はバラバラで統一はされていない。

そして皆顔が醜い。

いやこの星ではこれが普通なのかもしれない。

5匹いる。

あれはまるで......よし、彼等をゴブリンと呼ぼう。

......研究サンプルとして欲しいな。

そう考えた男の行動は早かった。

物質変化装置ランプを起動し、銃の中では最も無音に近い暗殺用ハンドガン"ラフマン37EL"と麻酔銃"バーゼスPPB"を作成する。

それらを両手に持ち狙いを定める。

パスッパスッと麻酔銃の発砲音が聞こえる程度で、他の音は聞こえない。

直ぐに片付いた。

内2匹が口を開けたまま眠り、他3匹が頭を撃ち抜かれて即死した。


《→生命体のサンプルを捕獲した。輸送してくれ》

《←了解しました》


拠点はまだ建設の準備段階だが、輸送艦カルツァーの中に研究施設が入っているので、今はそちらで研究する。

AI達は皆凄く優秀なので、直ぐに結果を出してくれるだろう。

ゴブリンを輸送する為の応援が来るまではここらで待機する。

何を話していたんだ?......捕獲したサンプルは言語解析にも使うか。

そんな事を考えながらゴブリンに近づいていく。

ゴブリン達の中央に何やら光るものがある。

ビン?のようだな。

青色の液体......飲み物......又は薬か?

ビンを手に取る。

まだ調べてはいないが、特に危険なものではなさそうだ。

今度はゴブリン達が持っていた武器類を観察する。

弓が1丁にメイスのような打撃系の武器が1本、ファルシオンのような剣が3本ある。

どれもボロボロで錆び付いている。

武器は要らないかな、特に凄いものもなさそうだし。

武器は一箇所に纏め、ゴブリンを解剖用と観察用に分けていると、輸送機デオ6型が到着した。

中から自立歩行人形オートマタが出て来るので指示を出す。

ビンも一緒に調べてもらう。


「私はもう少し散策するから先に帰ってくれ」

「了解しました」


作業する自立歩行人形オートマタ達と別れて森の中を進んでいく。また生命体の反応がある......ゴブリンのようだ。

形状の違いから他の種類もいるようだな......人にそっくりな体型だな。

争っているのか?

横に倒れ、コケ類だろう植物に覆われた巨大な大木を乗り越え近づいていく。

金属の打ちあう音が聞こえてくる。

どうやら戦っているようだ。

近くまで行き観察する......どうやら人の様、ではなくそれはまさに人だった。

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