第28話 少女たちのアルマス

 ジメジメした校舎裏、アンナがタバコに火をつけると同じ不良のレイカが言った。


「つかさ、それデマあんよね」

「はい?」

「メンソール、インポになるとかいうの」

「あーアレデマなん?」

「有名じゃん! つか信じてたの? アンナかわいー」

「だってさ、もしマジなら怖くね? 勃たなくなるとかさあ。メンドーな男避けできっかなーって思ったのに」 

「アンナはバカだねー」


 レイカは春の高貴な花が咲くように笑う。レイカはホントはいいとこのお嬢というやつで、親に反発さえしていなければ、こんなじめじめして草花さえ咲かない日影になんかいないような少女なのだ。その理由でさえ正当なものではなく、口うるさい親がいやだとか、忙しすぎて昔から家開けてばかりだったとか、取るに足らないものばかり。


 実際レイカはアンナみたいに出席日数が引っかかるほど授業さぼったりなんかしないし、テストの成績も悪くないし、顔は綺麗だし、いつもいい匂いさえしている。タバコだって前に一度無理して吸って盛大にせき込んだのを境にやっていない。


 染まり切っていないレイカはいつか自分の元を去っていくのだろう。不良仲間は住むセカイ違う子と仲良くしたって、後で悲しいだけだよーなんてちょっぴり心配も込めて言ってくる。


 きっと親と仲直りして、カッコイイ男の人と恋をして、可愛い赤ちゃんを産むのだろう。そんな未来も見えたけれど、今レイカが選んでいるのは自分だ。


「まーこのメンソールはアンナ流男避け道具ってことで。昔遊んでたゲームの虫よけスプレーみたいんなもんだよ」

「アンナゲームなんかやってたんだ?」

「やってたよー、昔っからゲーム学校に持ち込んで没収されたくらいはワルだったしぃ」


 だから今この校舎裏だけは、男の侵入・使用不可だ。




 お題:煙草とデマ 必須要素:男使用不可

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る