第19話 彼方のカナタ

 彼方(かなた)というのはずっと遠くとかずっと昔というのを指す意味合いの言葉だ。此方(こなた)とはちょうど反対になる言葉。

 オレにとってはちょっと意味合いが異なる言葉だ。

 それこそ遥か昔の彼方にある記憶だが、子どものころの友達の名前が彼方(かなた)だったのである。

 社会人になってからの貴重な休日。そんな日にだらだら寝そべって読んでた小説で、「空の彼方の向こうがわ、ここには誰もが大切な思い出を隠している」なんて一文が出てきてふと思い出した。

 小学一年生くらいのころの友達で、クラスが変わってからそのまんま疎遠になった、特に取り立てて言う事でもない、だれにでもどこにでもあるような話だ。

 ぶっちゃけもう何して遊んでたんだかも、どうやって友達になったんだかもロクに覚えてない。のに、そいつがいたというのは覚えているんだから記憶って不思議だね。

 まあそんな感じの友達だったが、そいつの言動で覚えていることが一つある。 

 お小遣いを多めにもらったとかで、彼方─カナタは大好物だったチョコを大量買いしてオレんちに遊びに来たのだ。

 オレもおすそ分けされて、最終的に気持ちわりーもう食えねーってくらいチョコパイとかクランキーチョコ食いまくったわけ。

 そしたらさ、カナタが口の周りチョコまみれにして言うんだよ。


「カナタの夢がかなった」


 ってね。いい笑顔なんだよ、口のまわりチョコまみれで古い漫画のドロボーみたいにしてたくせに。

 くっだんねえなーってオレもその場のノリとそいつの顔で大笑いしたんだけど、そいつは真面目な顔して言うんだよ。


「こうやって最高の一発ギャグをキメておけば、お前がいつかオレのこと思い出した時楽しく笑えるだろ?」


 わけわかんねえなあーってそんときは笑ったんだけど、今こうして思い出すとくっだらねえーって思いつつ本読むより笑っちまってるわけだから、まあ彼方の記憶のカナタのヤローの大勝利ってやつかもしれない。




 お題:男の彼方 必須要素:一発ギャグ

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