第18話 恋は血がにじむ

 真理亜(まりあ)は制服のプリーツスカートをひらつかせ、うつ伏せた女子生徒を右の上履きで蹴った。憎しみをこめて蹴り過ぎて、上履きには血がついて、倒れた女の周囲には血痕が残っている。


「顔狙わなかっただけありがたいと思えよー♪ アタシの大好きなソラくんに近寄ったんだからさあ」


 夕方の誰もいない教室で、真理亜は足の鉄槌をもう一発。呻いてもう抵抗する気力もないのを確認して、女子生徒の髪を掴んでムリヤリ顔を上げさせると、真理亜はスマートフォンの画面を見せた。


「今度ソラくんに色目使ったらコレ全世界にバラまくから。わかった? ……わかったらさっさと返事しろ!!!」

「ぐひぃ!!! はい、はいわかりました!!! ……ぐすっ、ひぐ、うぐ」


 よろしい、と先生ぶった仕草で頷くと、真理亜はカバンにスマートフォンをしまった。近くにいた金で雇った男子生徒共にも帰っていいように伝える。

 スマートフォンには男子生徒たちに協力させて撮った趣味の悪い写真が入っている。男の白濁と自分の涙で汚れたクソ女を笑いながら撮るのは痛快だった。

 普段なら脅す程度でここまではしない。だがこの女は身の程知らずなことに、あの人へちょっかいをかけ、あまつさえ告白しようとしたのだ。

 オンナとしての価値がなくなれば、ソラくんに近寄る気もなくなるでしょう。後処理は雇った奴らに任せて教室から出る。

 まだ鼻息の荒い男共がクソ女をこの後どうするかは、真理亜には関係ないことだ。


 真理亜が廊下に出ると夕暮れ時の冷たい空気とオレンジの光が差す。

 下駄箱へスキップで行くと、そこに丁度帰ろうとしているソラがいる。

 ソラはバスケ部の時期部長で幼なじみで背も高くて、シュートを決める姿もカッコいい。

 出来ることなら宝箱にそっとしまって自分だけが眺めていたい。

 真理亜はソラを見るたびそう思う。


「恋は戦争なんて歌が某動画で流行ったけどさあ、実際戦争だよねえ」

「急になに言ってんだよお前は」


 背の高いソラが真理亜に合わせてかがんで頭を撫でてくれる。

 そのたびに、真理亜はいつも恋と戦争の関係の深さを実感するのだ。




 お題:戦争と血痕 必須要素:右の上履き

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