第17話 殺されたネットについて
おれはネットの事を考える。ゴルゴンゾーラを乗せたトーストを食いながら、友達の事に思いを馳せる。そいつは今はやりのツイッターとやらをしていた。粋がってオワコンなんて言うやつもいるが、まあ定着率も高いしやっぱりまだまだ現役でかなり人口密度の高いコンテンツだと思う。ネットはおれの友達で──親友というわけじゃあないが、会ったら話して遊ぶ約束もする、そのくらいの仲ではあった。女の子と遊ぶより川辺でわけのわからんグロイ虫を針にひっかけて釣りをするのが好きなネクラなヤローだったが、心の中では大きなことを考えているようだった。いつか有名になりたい、と。おれがとなりで釣り糸を垂れると、必ずと言っていいほどそんなことばかりを言うのだった。
そいつが今から配信をしまーすってツイッターに動画のURL貼ったのが騒動の始まり。釣りの配信なんか誰が喜ぶんだとか思ったら、これからガソリン被って自殺しまーす!! とか言い出して灯油タンク頭からひっかぶったもんだからさあ大変。ライターつけた瞬間、爆発で燃え上がる我が友ネットくん。あいつが命より大事にしてた、部屋に置いてある釣り竿ケースにまで引火したのは切なかったね。
結果からいうと「この動画やべーぞwww」ってRTふぁぼ(今はいいねって言うんだっけ)効果で、それこそ世界中にガソリンまいて火ぃつけたみたいな大炎上だったね、ネットでも。何十万リツイートも行っちゃってさ、パクツイ含めたらおよそどのくらいのRT数になんのか全然検討もつかないね、貼られた動画はやべーから速攻で削除られたんだけどさ、まあこれが昔なつかしゾンビウィンドウみたいに有志のUPでよみがえるよみがえる。新聞にも載った。TVでも騒がれた。偉そうなコメンテーターが子どものネット依存とかなんとか大騒ぎしてた。
まあ一躍有名人ってやつだ。そこにあいつはいないけれど。あいつの死体は自分と葬儀屋の手で計二度焼かれて今は一族代々伝わる墓にある。あいつはあの世で一躍有名人だーとか喜んでるのだろうか。でもよ、ネット。今の自殺社会情報社会で一人でちょっと派手な自殺したところで、次の瞬間には誰も覚えてねーよ。実際お前が墓に入ってからテレビでも新聞でも見かけなくなったし。やるんなら色んな人間巻き込んだテロ起こすとかさ、猟奇的で変態的に人殺すとかさ、そのくらいしないと歴史に残らねーんだよ。言うだろ、百人殺せば英雄って。
まああいつ気が小さいから人巻き込んで死ぬとかまでは考えられなかったのかねえ。お人よしでもあってさ、おれが釣り針の針にくっつけるグロイ虫キモがってたら代わりにつけてもくれたっけ。
どこから嗅ぎつけたのか、結構仲良かったからってマスコミに取材された時にも言わなかったけど。おれ結構お前のこと好きだったんだぜ。今は平気でゴルゴンゾーラなんてオサレなもん食ってるけどさ、もうネットに乗せられて買ったつりざお垂らすこともないんだな、って思って泣いたくらいはさ。
恥ずかしがらずお前のそのネクラでバカで実は目立ちたがりやのとこ結構好きだぜって言ってやったら、お前の承認欲求は満たされて死んだりしなかったのか? なあ、根戸川和樹さんよう。
お題:殺されたネット 必須要素:ゴルゴンゾーラ 制限時間:三十分
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます