第15話 天高く鳥が鳥食う秋

 スポーツの空に相応しい日だった。よく空は晴れており、風は汗を乾かすように適度に吹いて、世界を照らす太陽は温かい。絶好の運動会日和と言えよう。妻は息子たちのためにはりきっておにぎりを握り、いなりずしを仕上げ、鳥肉を時間が経ってもサクサクのからあげに変え、分厚い卵焼きをくるくる巻いて、サラダをギュウギュウ重箱へ詰めた。


 子どもたちも頑張った。下の娘は一生懸命玉入れをし、かけっこの早い息子は障害物リレーで一等賞を取った。私はそれをカメラに収めた。


 そうこうしている間に昼食の時間になった。運動で腹ペコの子どもたちはものすごい勢いで重箱を空にしていく。そんな私たちに来訪者があった。黒い翼を持った、大きなカラスだ。


「いやあね、お弁当狙ってこないかしら」

 

 妻は重箱を手で覆いながら、あからさまに嫌な顔をして見せる。実際くわえていたからあげをつついているから仕方ないかもしれない。しかし共食いだなあ。


「大丈夫だよ、こんな日はカラスだって一緒にスポーツをしに来ただけさ。」


 からあげだって、誰かがカラスに投げてよこしただけかもしれないし。つっついていたからあげがなくなると、カラスは飛んだ。

 真っ青な空の下で黒い鳥が優雅に飛んだ。

 私の持っていたからあげを掠め取って。


「さしずめ借り物競走中ってとこかしらね、カラスさんも」

「でもお父さんのからあげは帰ってこないね?」


 娘の残酷なツッコミとそんなこと無視して食べ続けるマイペースな長男の反応が身に染みた。


 お題:スポーツの空 必須要素 漆黒の翼

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