第14話 勇者よ急げ!(小学生レベルの下ネタあり)
勇者は急いでいた。うんこがしたかったからである。かの魔王城にトイレはない。魔族の身体は排泄をしない。人のような下品で非効率的な行為がない、そこも魔族が人より勝っている部分の一つだ。とは魔族の言い分である。食物連鎖というものがわかっていないぼっち生命体めが、とうんこで頭がいっぱいな腹痛勇者はうらやま……憤った。勇者であるから、この世の生命とその循環を愛しているのだ。
どうせ敵の魔王城だ、ここでうんこ垂れてやろうかと思ったけど仲間の存在が許さない。
「いよいよ決戦だな、気張って行こうぜ」
気張ったら別のものも気合と一緒に出そうなんだが。アーチャーのチスターとは同じ村で育ち同じ村を焼かれここまで頼りにしていたが腹痛に悩まされる今は煽っているようにしか見えない。デコが目立つ髪形もなんかムカつく。
決戦もいいけどうんこしてから行かない? って言いたいのを抑える。そんなことをしたら後世まで決戦直前でうんこしたくなった勇者として祀られてしまう。うんこヒーローおトイレマンだ。それだけは避けなくてはならない。
「そうね。……えっと、最後だから言うんだけど、私、ニレスのことが……ううん、なんでもない」
僧侶のナントが何か口ごもった。気になるじゃないか。声出していこうぜ! ちなみに勇者ニレスは今声だしたらうんこも出そうなので何も返せない。
魔王の間へ来た。玉座までむだに距離があってむかつく。気を張らないと歩いている途中で漏れそうだ。横切るとボーン! ボーン!と火が灯る松明のそばを通りながら魔王の前までやってきた。
「クックック、よくぞここまでたどり着いたな、勇者ニレスよ。この時を待ちわびていたぞ……試練の洞窟を抜けた先で出会った時より強くたくましく成長したな! あの時見逃してやったこわっぱがこうも違う色を見せるとは……全く人とは興味深いものよ……」
大魔王カオスがグラスを傾けながらなんかグダグダ言っている。勇者はそれどころではない。うるせえ死ねワインが腹に来てションベン垂れろ! こっちは一刻も早く終わらせてうんこしたいんだよ! この退魔の宝玉を掲げる代わりにうんこを顔面にぶつけてやろうか。
チスター達はというと、シリアスな顔をして武器を構えて魔王の口上に聞き入っている。殴るチャンスじゃねえかなんで聞き入っているんだ。勇者ニレスは納得がいかない。
「怒りを露わに我へ逆らうと言うのか……これだから人間は愚かよ……」
まだまだ口上は続くらしい。勇者はイライラした。お前さっき人間褒めてたじゃねえか。矛盾が多いんだよカス。
「我が名は大魔王カオス! お前たちの身に恐怖と絶望を刻んでやろう! このトウマの杖でな! このトウマの杖の効果は……」
「そおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおい!!!!!!!」
勇者は激しく剣を振るった。魔王倒すには事前に退魔の宝玉掲げなきゃいけないとか直前まで覚えてたけどその時はもう忘れていた。便意が限界突破したからである。
「てめえうるせえんだよ!!! グタグタグタグタ喋りやがって!!!! 村焼いてやった相手の前でよくそんな余裕でいられるな!!? 死ね死ね死ね死ね死ね! うんこ垂れてしね!!!」
「ぎょえええええええええええええええええええええええ!?」
退魔の宝玉がないと傷つかないはずの大魔王カオスの身体が斬撃に切り刻まれる。うんこしたいパワーが魔族に勝ったのだ。血の雨が降る。叫びがこだまする。
「ニレス……お前村のことを今も引きずって……」
「チスター、私達も助太刀しましょ!」
「ああ!」
チスター達はわかったような顔をしてニレスに加勢した。血の雨が増えた。
こうして勇者は世界を救った。
「おお勇者よ、なんでも褒美をやろう、何がいい?」
「トイレ!!!!!!!!」
勇者は王城の掃除が行き届いたトイレで思う存分うんこをしたという。
晩年、魔王を倒す時の事の心情を訊ねてきた冒険小説家に、勇者はこう答えた。
「気張るか気張らないかですよ。気張り過ぎても死ぬし、気張らなくても死ぬ。冒険とはそういうものです」
お題:激しい勇者 必須要素:トイレ
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