テクノロジー

 これは遠い昔、神の国でのお話。空白の玉座の前では、ある小さい星の統治者を巡って議論が闘わされていた。1000年ごとに投票によって星の主を入れ替えるのが習わしとなっている。


「オレは地の民どもには君主制がよいかと思う。人々がついてくるのは力と奇跡を持って生まれた王だけだ。……ちょうど、オレみたいに」

 立候補者の一人、とても老人とは思えない体つきをした男は、そう言って人差し指を天に掲げた。ぼうっと頭の大きさほどの炎が上がって、観客はどよめいた。

「いや、何を言っておる。そのような知も思慮もない輩が暴君と化し、星を滅ぼす。民に求められているのは法、エリートによって定められた規律の力じゃ」

 そう言って、高い鼻に片眼鏡が良く似合うロマンスグレーの老人は貴族制を掲げた。

「……それに、ほら。主のような愚鈍な民には政治は出来ぬじゃろうて」

 演説の終わりに付け加えた一言で、観客からは嘲笑が上がった。最後の候補者はよぼよぼの爺なのだ。杖を片手に今にも倒れそうになりながら登壇する姿に、「早くしろー」、「帰れー」などのヤジが浴びせられる。

「えー、ワシ。ワシはんー……ん? ああ、民主制が良いでごぜましょう。なぜなら……」

 そういうと爺はゆっくりと杖を演説台の上に乗せ、先を観衆の方へ向けた。ちょうど獲物を狙うアサルトライフルのように。



「ふいー。ああ、最近物忘れがひどくていけない。なぜなら、でごぜえましたな。皆様、どうしようもない勘違いをしておられる。問題なのは、誰が統治すべきか、ではなく、誰が統治できるのか。ワシのような爺にも可能なのじゃから、愚かで元気な星の民には簡単なことでごぜえましょう? これさえあれば」

 それからというもの何千年もの間、誰もいなくなった玉座に腰掛け、爺はその星のことを見守っているのだ。いつか彼が生み落とした技術という名の王に導かれ、民衆が他の星へと乗り出すその時を待ちながら。


 ★テクノロジー(technology)

 言わずもがな技術のこと。テク(てくてく)+ノロ(のろい)+ジー(爺)。歩くの遅い爺さん。あと二人は、ファンタ爺とノモロ爺(法律学)です。爺大量発生。

 技術のおかげでのうのうと飯を食っているのに、こんなこと書いたらいけませんね。ごめんなさい。でも衆愚制は僭主制を生む(byアリストテレスのおっちゃん)。テクノロ爺が実権にぎると怖いよね?


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