カタルシス

「バルカベロス将軍死ス」

 その報は大陸全土を駆け巡った。隻腕の鬼神と呼ばれた戦の天才も病には勝てぬ。各国は此を期にと反旗を翻し、カレリヤ戦記最大の版図誇った我がダーガリッヒ帝国は、今や風前の灯火であった。

 時に皇帝ガリオストラ3世は太陽の皇帝と呼ばれ、何よりも仁を重んじる人徳深きお方であった。皇帝は自らの御命と引き換えに、我らが父祖の安寧を図られたのである。ガリオストラ様の御体は7つに引き裂かれ、それぞれ7つの国に征服の証として今でも保存されているのだ。

 さて、我がお主に伝えなければならないことはほぼ伝えた。あとは2つの命を残すのみである。この話を書に記すな。皇帝のお痛わしい姿を紙に刻むことは、彼の御体に傷を刻むことと同義である。この話を口に語るな。彼の惨劇を嘯くことは、帝を侮辱することと同義である。

 しかし彼の屈辱は民族の歴史として、伝承して行かねばなるまい。今、貴方のもとへ旅立つことでこの罪が赦され給うことを。父も、その父も我々は語り、死して来たのだから。しかしなんとこの心が穏やかなることか。……ああ偉大なるダーガリッヒ。汝に捧げるこの魂。太陽の皇帝の威光が我が子らのもとに降り注がんことを。




 ★カタルシス(catharsis)

 浄化。悲劇を見た時に心の奥に沈殿していた感情が解放されて、気持ちが洗われること。語ル死ス。ちょっと難しいですね。詳しくは検索お願いします。

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