レゾンデートル

「汝のレゾンデートル、今ここで我に見せてみよ!」

 迷宮の深く奥、たどり着いた王座。漆黒のマントを身を纏い、銀のマスクの奥から赤い瞳を覗かせるのは、闇に染まったこの世の全てを統べる者。今、明日を掛けた戦いが始まろうとしていた。

「あのー、少しよろしいですか」

 申し訳なさそうに純白のローブから華奢な手を挙げたのは、パーティーの命、神官のメアリ。

「なんだ?」

「レゾンデートルとは何のことでしょう」

「存在価値のことだ。では行くぞ!」

「ちょい待ち」

 アサシンナイフを持った右手で待ったを掛けたのは、盗みの名手、シーフのアンナ。

「お前の配下になんとか四天王っておるやろ? あれって何? 「四天王が一人!」って毎回毎回うるさいんやけど」

「あれはそのあれだ。名刺に書く会社の役職みたいなもんだ。ほら例えば、「営業部の山田」って言っておいた方が後々いろいろ分かりやすだろう。よし、満足したな。もう満足したよな」

「待たれよ!」

 部屋が震えるほどの声を張り上げたのは、これまで多くのピンチを起死回生の必殺技で救ってきた男、サムライのムラマサ。

「なんだ!」

「お主の必殺技、インフィニティ・ゼロとはどう意味でござるか? 確か黒い波動が一発出る技であったが、あれは無限なのか零なのか。……ふむ、禅問答でござろうか?」

「……そうだ。じっくり考えてくれ……」

「はい! 質問があります」

 ピンと一本の筋が通ったように美しく手を挙げたのは、我らが主人公、勇者のカイル。

「あなた、さっきレゾンデートルは存在価値って言いましたよね。じゃあなんで「お前の存在価値を見せてみよ」じゃだめなんですか? 何か違いがあるんですか? ねえ、どうしてですか、ねえねえ……」

「もう勘弁してください」

 こうして魔王を精神的に倒した勇者たち一行は、世界に再び平和を取り戻したのであった。めでたしめでたし。(END)



 ―――他人事のように流れるエンドロール。男はコントローラーを投げ呟いた。

「レゾンデートルねぇはこれ」





 ★レゾンデートル(raison d'etre)

 存在価値。存在価値でいいじゃん。レゾンデードルのraison d'etreとは?





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