望まない結末(5)
「俺が賛成したのは一凛とハルのことを知らなかったからだ。本当に一凛の思う通りに世間を操ることができると思うか?下手したら何も得られずに全てを失う」
そう言うと依吹はコーヒーを入れるからとキッチンに姿を消した。
一凛は脱力したようにソファーにもたれかかった。
簡単な計画でないことは最初から分かっていた。
低い成功率に見合わない高すぎるリスク。
キッチンから何かが割れるような大きな物音がした。
一凛が駆けつけると依吹が床に散らばったガラスの破片を拾っているところだった。
「カップ取ろうとしたら手が滑っちゃってさ。危ないから一凛は手伝わなくていいよ」
一緒に破片を拾おうとする一凛をやんわりと制する。
依吹は昨日から殆んど寝てないはずだ。
「依吹、もしお腹空いてたらわたし何か作ろうか?」
「たぶん一凛より俺のほうが料理上手い」
そう言って依吹はちょっとだけ笑った。
キッチンを見回すとけっこうな調理機具が揃っている。
いつも外食ばかりしていると思っていたので意外だった。
普段の穏やかな空気がまた二人の間に流れる。
「でも今日はなんも材料がないから、どっか食べに出るか?」
依吹は全て拾い終わると立ち上がり腰を伸ばした。
「なに言ってるの、だめよ」
「なんで?」
「なんでってわたしは警察に追われてる身よ」
一凛を見下ろす依吹は何度か瞬きを繰り返し思い出したように
「ああ、それなら大丈夫」
と言った。
「大丈夫ってどういうこと?」
「被害届けなんか出さなかったから」
依吹が言うには警察はアパートの賃貸契約の筋からすぐに一凛の存在を突き止めた。
本来なら一凛は動物園内への不法侵入や窃盗の罪に問われることになる。
けれどそれは動物園側が被害届けを警察に出したことで成立する。
「もしハルが人間だったら今回の一凛の行動は罪になるけど」
そこで依吹は一旦言葉を切り一凛から目を逸らした。
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