事件(3)
一凛が何か言おうとすると、知らない、分からないの一点張りだった。
またけたたましく事務所の電話すべてが鳴っていてみなその対応に忙しそうにしている。
埒が明かないと思った一凛は事務所を出た。
この前までハルがいた檻にはテナガザルがいて、数人の小学生たちが一生懸命なにか話しかけていた。
最初にハルがいた檻は以前みた時よりもっと朽ち果てていた。
中は空だった。
ハルは一般客が入ることのできない所に連れていかれたようだった。
きっと裏手にある宿舎のどこかにいるのだろう。
動物たちが夜に過ごす宿舎は園の関係者以外は入ることはできない。
特に猛獣とよばれる大型の動物を収容しているところはしっかりと施錠されている。
ハルはきっと宿舎の中でも一番奥の奥に収容されていると思われた。
依吹に電話をかける。
二回目のコールで依吹は電話をとった。
重症のスタッフの容態を訊ねると、一時は危なかったがどうにか持ち直し今は安定していると聞きひとまずほっとする。
さっき見た壁についた黒い血を思い出しながら、どういった傷なのか訊ねる。
どんなふうにハルが人を襲ったのか知りたかった。
「頭部を強打しているみたいだ、出血もそこからある」
あの血は頭から出たものだったのかと思うと、改めてぞっとした。
「あと肋骨が何本か折れてて打撲も数カ所」
肉が裂けるような外傷がないらしいので、ハルは噛みついたのではなさそうだ。
スタッフはハルにはね飛ばされたのではないだろうか?
ゴリラの腕力はすごい。
人一人など簡単にはね飛ばすことができる。
「回復してもいろいろ後遺症が残りそうな感じ。奴の男としての楽しみももう終わったかもな」
こんなときにそんなことを言うなんて不謹慎だと思ったが、依吹のその言葉で怪我を負ったスタッフが男だと分かった。
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