さようならハル(6)



 ハルの移動計画のために出した自分の指示にちゃんと従わなかったのだろうか?


 でもそれだけで深刻な事態が起きているのに自分になんの連絡も来ないのはおかしい。


 一凛を包む闇は体の中に入り込みじわじわと広がる。 


 とにかく明日また何か分かったらすぐに連絡すると約束して依吹は電話を切った。


 部屋の灯りをつけテレビをつけた。


 放映終了の画面をまわして深夜番組をやっている局にチャンネルを合わせる。


 人の気配がない部屋に一人でいるのが怖かった。


 画面では青い目をした男女が見つめ合っている。


 映像の感じから古いハリウッド映画に見えた。


『何かあったら必ず知らせをよこすから』


 画面の中で男が女に言った。


 十年前依吹が言った言葉を思い出す。


『ハルに何かあったらすぐ連絡するから』


 依吹はその約束を今でも守ってくれていた。


 でもまさか自分が日本に帰国し、それもこんなハルの近くにいる状況で知らされるとは。


 ハル、いったい何があったの?


 ハルが理由もなく人を襲うはずがないのは誰よりも一凛が知っている。


 あの聡明なハルが重症を負わせるほどの怪我を人にさせるとは、よほどの理由があるからに違いない。


 今すぐにでもハルのところに駆けつけたかった。


 ハルは今どうしているのだろう。


 別の檻に隔離されているに違いない。


 ひどい待遇を受けていないだろうか。


 どんな気持ちでいるのだろうか。


 不安で怖くはないだろうか。


 一凛はベッドに腰掛けたまま朝を迎えた。


 いつの間にかテレビ画面は朝の番組に切り替わっていて、爽やかな笑顔のアナウンサーがはつらつとした声で朝の挨拶をしている。


 一凛は立ち上がると浴室へと向かった。


 熱いシャワーで冷えきった体を温める。


 しっかりしろ一凛。


 目を閉じ顔面に熱い飛沫を受けながら、自分に暗示をかける。


 大丈夫、大丈夫、大丈夫。


 シャワーを浴び終わると一凛は出かける準備を始めた。




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