頬の下の傷(3)
「一凛、一凛」とほのかは外に顔を覗かせたまま手招きをする。
おしぼりでポン酢がはねた襟元を押さえながら立ち上がった。
その間ほのかは外にいる男性に向かって親しげに話しかけている。
「いやぁ、驚いたよ」
声が聞こえた。
おしぼりを持つ一凛の手が止まる。
聞き覚えのある声だった。
ほのかの背後から顔を出すとすぐに目があった。
その目はとても懐かしそうに一凛を見た。
「久しぶりだね、一凛ちゃん」
颯太だった。
一学年上だった颯太が先に卒業して以来だった。
最後に見たときよりも少し背が伸びているのではないかと思った。
それ以外は昔とあまり変わっていない、左頬の下に昔はなかった傷を除けば。
「もしかして颯太の昔の彼女?」
ひょっこりと颯太の横から顔を伸ばした男は顔が真っ赤だった。
彰斗というその男は颯太の大学の時の友人で今日は二人で泊まりに来ているのだと言う。
本当は彰斗が彼女と来る予定だったのが直前になって喧嘩別れしてしまったのだそうだ。
すでにかなり酔っている彰斗とほろ酔いのほのかは意気投合し、四人で一緒に呑もうということになった。
彰斗の予約した部屋を一通り見てまわり外の露天風呂から帰ってきたほのかは「気合い入ってたんだね、彰斗」といつの間にか勝手に呼び捨てにしている。
「もう、今日は呑むぞ呑むぞ呑むぞ〜」と拳を振り上げる彰斗と一緒に「イェイ、イェイ、イェイ」とほのかも手を上げる。
「颯太さんはお酒はもう飲まないの?」
さっきからお茶の入ったペットボトルを口に運ぶ颯太に一凛は訊ねる。
「酒は飲まないことにしてるんだ。いつ仕事で呼び出されるか分からないからさ」
颯太が第一希望の大学の医学部に合格したところまでは一凛も知っていた。
「仕事って」
「うん、今は大学病院の救急外来にいる」
そこで彰斗が二人の話に割って入ってきた。
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