頬の下の傷(2)
一凛は空になった硝子とっくりを持ち上げほのかを見た。
ほのかはうんとうなずく。
一凛は立ち上がり備え付けの部屋の電話で追加注文する。
少しよろけて酔ったかな、と一凛は自分の頬に手をあてた。
「なんか結局さぁ」
ほのかは横座りしていた足を伸ばした。
「恋って相手の男をどれくらい自分が好きになるかだよね。愛されるだけなんて退屈。あーあ、すべてを投げ出してもいいくらい恋させてくれる男いないかなあ」
ほのかも酔ったのかいつもより饒舌だった。
時計を見るとまだ午後三時過ぎだった。
どうせあとは帰るだけだ。
電車の中で寝ていれば着く頃には酔いも冷めるだろう。
「ほのかのツインソウルはまだ見つかってないの?」
一凛を見たほのかの目は心なしかとろんとしている。
「まだ。もしかしたら今世では会えないかも知れない」
ほのかにしては弱気だねと一凛が言うと、ちょうど追加した冷酒が届き、ほのかはツインソウルについて詳しく語り始めた。
一凛はその話を半分本気で半分はまるでおとぎ話を聞くようなかんじで、適度に相槌をうった。
「でね、そのツインソウルと出会った瞬間なんだけど」
部屋の外で大きな物音がした。
ほのかと一凛は顔を見合わせる。
また、どたん、ばたんと二度大きな物音がし若い男性の笑い声が聞こえてきた。
「イケメンかも」
ほのかは立ち上がり、はだけた襟と袂を整えると入り口へと向かう。
一凛が止める間もなくほのかは扉から顔を覗かせた。
「大丈夫ですかぁ」
一凛は入り口を気にしながらも鍋の中に箸をさまよわせる。
大きな塊にぶつかり引き上げると最初に入れた豆腐だった。
火が通り過ぎてすが立ち固くなってしまったものを口に運んでいると、ほのかが、あーっと大声をあげ、思わず茶碗の中に豆腐を落とす。
ぽちゃんとポン酢が浴衣にはねた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます