一凛の決意(8)
一凛は颯太が何を言いたいのか分からない。
「依吹に同情してるとこあるだろ、依吹の目のこととか依吹の姉ちゃんはほんとうは依吹の母親だってこととかさ」
「依吹のお姉さんが依吹のお母さんって」
初めて聞いた話だった。
一凛の驚いた顔を見て颯太はちょっとだけ気まずそうにした。
「知らなかったのかよ、子どもの時から一緒にいて。依吹の姉ちゃんは十五の時に依吹を産んだってみんな昔から噂してんだ。相手の男は」
その後の話は一凛が耳を塞ぎたくなるような内容だった。
依吹の父親、依吹のお姉さんの相手の男性は誰だか分からなかった。
周りがどんなに問いつめても本人は決して名前を言おうとしなかったらしい。
ちょうど数ヶ月前から隣接する町で連続強姦事件が起きていて、被害者はみなまだ十代前半の少女ばかりだった。
依吹が産まれた同じ年に犯人がようやく捕まった。
聞いたことのない名前の国の外国人の男が犯人だった。
最初は日本人離れした依吹の色素の薄さを綺麗だと褒めていた近所のおばさん達はこの頃から影でこそこそ噂をするようになった。
依吹は強姦されてできた子どもなんじゃないかと。
噂だったものはいつしか真実になり触れてはいけないものになった。
でもみな口にしなくなっただけで心の中ではしっかりと根を下ろしていた。
依吹が大人になったらどこか遠くに行きたいと言っていたのは、自分を知る人が誰もいないところに行きたいという意味だったのだろうか。
藤棚の下でのキス以来、依吹から何の連絡もなかった。
依吹は登校時間が変わったのか、通学のルートを変えたのか、前はときどきバス停の前を通り過ぎていたが、それもなくなった。
依吹のお姉さんの話は衝撃的ではあったが、だからと言って一凛の中で何かが変わったわけではなかった。
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