一凛の決意(7)
「ああ、あれ嘘だよ、冗談。彼氏とかいないし、誰とも付き合ってなんかないよ」
それ言うの遅そすぎる、そう言おうとする一凛に依吹はまた唇を重ねてくる。
温かい唇から依吹の優しさが躯に流れ込んでくる。
依吹は優しい。
ずっと前から。
ファーストキスの相手が依吹でよかった。
ほんとうに。
でも、どうして何も見えないし何も聞こえないのだろう。
「どうした?」
「なにも見えないし、なにも聞こえないの」
依吹は少し困った顔をする。
「うーん、この状況はどうしたらいいんだろ。じゃあ、今のはなかったことにするか」
一凛は小さく笑った。
「依吹だったらなかったことにできるかも」
「ひでーな」
依吹は立ち上がると一凛に傘を手渡し藤棚の外に出た。
「行こうぜ」
一凛は青いポンチョの後を追う。
藤棚を出ると傘にあたる雨音が大きくなる。
それに混じって何かが聞こえた。
一凛は立ち止まり辺りを見回す。
「一凛」
雨の向こうで依吹が自分を呼ぶ。
低い哀しい音だった。
一凛はそれをそのままそこに残し、依吹に駆け寄った。
それから数日後、颯太の方からしばらく距離をおこうと言われた。
一凛がすぐにうなずくと、颯太はため息をついた。
「やっぱり一凛ちゃんはほんとうに俺のことなんとも思ってないんだな」
一凛は返す言葉がなく、ごめんなさいと謝ることしかできなかった。
「依吹とつき合うの?」
一凛は驚いて颯太を見上げる。
「俺、見たんだ。あの日実は次のバス停で降りて引き返したんだ。そしたら一凛ちゃんが依吹の自転車の後ろに乗ってた」
「依吹はただの」
幼馴染みと言おうとして依吹とのキスを思い出す。
「ただの幼馴染みって言いたいんだろ。それってさ依吹には自分しかいないとか思ってないか」
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