一凛の決意(6)
「だよな、卒業したら海外に行っちゃうんだもんな」
一凛は植物園からそう遠くない動物園の方を眺めた。
「ねえ依吹、お願いがあるんだけど」
「なに?」
「わたしが留学してる間に、もし彼に何かあったらすぐに連絡くれる?」
「睦雄?」
一凛はうなずいた。
「分かった」
「ありがとう依吹」
雨が激しくなってきて藤棚の下に雫がぽたりぽたりと落ちてくる。
「ここそろそろ限界かもな。まだいんの?」
「うん、もう少し」
依吹は傘を広げると一凛にさしかけ自分も隣に座った。
二人は黙って傘にあたる雨音を聞いた。
「睦雄がそんなに気になるか」
依吹が静かに言った。
一凛は首を振った。
「分かんない。どうしてこんなにハルのことが気になるのか自分でもわかんない」
「ハル?」
「わたしそんなに変?」
一凛は詰め寄るように伊吹に顔を寄せた。
真剣な一凛に依吹は一瞬たじろぐ。
「大丈夫、そんなに変じゃない。よくわかんないけど大人がいう多感な年頃とかなんだろ俺たち。今だけだって。あと何年かしたらころっと今のことなんて忘れてるって」
「ハルのこと忘れたくない」
一凛は顔を覆う。
「一凛」
依吹が一凛に触れると一凛の力の入った体がふっと弛んだ。
依吹は一凛の手をゆっくりとおろす。
潤んだ目と見つめ合う。
自分の姿を映した依吹の薄い瞳が一凛に近づいてくる。
「わたしの目真っ赤で変でしょ」
「しらない」
ああ、また自分はやってしまったと一凛は思い、ごめんと謝ろうとした口を依吹にふさがれる。
優しいキスだった。
依吹はゆっくりと体を離すと一凛の表情を確かめるように顔をのぞき込む。
「どうしてキスするの?」
「え?」
「依吹は男が好きなんでしょ」
依吹は思い出したように笑った。
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