銀白色の背中(5)
依吹は檻の中のゴリラを観察するようにじろじろ見ている。
「へえ、面白いな。こいつ一凛には威嚇しないんだ」
依吹が一歩足を踏み出し檻に近づくと、ゴリラは白い歯を剥き出し、依吹に向かって唾を吐いた。
おっと、と依吹は後ろに飛び跳ねる。
ゴリラは檻の前から離れると奥の方に行ってしまった。
「なんだよ、唾のあとはシカトかよ。ひでぇな」
そう言って依吹は笑った。
「こんなところで何してるのよ依吹、お姉さん手伝わなくていいの?」
慰めの言葉をかけようと思っていたのに、元気そうな依吹を見て、つい説教がましいことを言ってしまう。
「こいつ先月ヴィルンガ火山群で保護されたんだけど、ぜんぜんしゃべんないし、すごい凶暴でみんな手を焼いてるんだよな」
「保護?」
「ああ、結構深い傷を負って瀕死の状態だったんだけど、もうこの通りさ。やっぱり野生動物ってすごいよな」
そう言われて見るとゴリラの内腿からお腹にかけて広い範囲で毛が乱れて生えているところがある。
お腹の中から何発かの猟銃が見つかったらしく、たぶん密猟者に襲われたんだろうと依吹は言った。
「彼、名前はなんて言うの?歳は?」
依吹は面白いものでも見るような目をして一凛を見る。
「彼?まるで人間みたいに言うんだな。はっきりとした歳は分からないけどシルバーバックだから人間だったら成人したオスさ」
「シルバーバック?」
「ああ、ゴリラのオスは成熟すると背中の毛が銀白色になるんだ。それをシルバーバックって呼ぶ。名前だけどみんな睦雄って呼んでる。昔の凶暴な殺人鬼の名前さ」
「ひどい」
「仕方ないさ、なにを訊いても答えないし、凶暴すぎて手に負えないし、客になにかあると困るからここに隔離してるんだ」
だからプレートも何もないのかと一凛は納得した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます