銀白色の背中(4)
猿山の猿に訊ねると、「あんたには教えてあげない」と意地悪く返された。
猿山が最後だった。
もしかしたら依吹は動物園に来ていない、もしくはもう別のところに行ってしまったのかも知れない。
戻ろうとして一凛は自分が知らない場所にいることに気づいた。
考え事をしながら歩いているうちに迷い込んでしまったようだ。
その場所はひときわ緑が深かった。
まるでジャングルの中にいるかのような錯覚に襲われる。
その緑の奥に檻があった。
中にいたのは。
真っ黒で艶やかな毛がわずかに風で揺れていて、その先端に雨の雫が白く光っている。
がっしりとした逞しい体つきに同じように精悍な顔つき。
地面をしっかりと踏みしめるように支える四本の手足。
滑らかな曲線を描く背中は銀白色に光っている。
一凛は息を呑んだ。
美しかった。
檻の中にいたのは一匹の大きなゴリラだった。
一凛が檻に近づくとゴリラはそれに気づきこっちを見た。
二つの瞳は黒曜石のようだった。
「こんにちは」
ゴリラに話しかける。
ゴリラは黙ったまま檻の奥から一凛を見つめている。
「お名前は?」
一凛は檻に吊るされているプレートを探すが見当たらない。
「わたしは一凛」
一凛がそう言うと、奥にいたゴリラはゆっくりと一凛の目の前にやってきた。
近くで見るとその大きさに圧倒される。
オスのゴリラだった。
立つと二メートルに届くかも知れない。
不思議と怖くはなかった。
どれくらいの間だろう、一凛とゴリラは見つめ合った。
黒く深い瞳に吸い込まれて一凛は動けなかった。
瞳は一凛の全てを見透かし静かに何かを語っているかのように見えた。
「わたしは一凛、あなたは?」
一凛はもう一度訊ねた。
「そいつはしゃべんないよ」
振り返ると依吹が立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます