銀白色の背中(3)


 その日の雨は風に吹かれてたなびく針のような細かな雨だった。


 そんな雨の中、依吹のお父さんの葬儀は行われた。


 肝臓がんだったそうだ。


 ここ一年ほどずっと入院していて先月から家で療養をしていたらしい。


 一凛はまったく知らなかった。


 依吹のお母さんはずっと前に亡くなっていて、喪主は依吹のお姉さんが務めていた。


 依吹は葬儀の場にいなかった。


 顔見知りの近所の人たちや、見たことのない依吹の親戚の人たちに混じってお焼香をあげた一凛は他にすることもなく辺りを見回す。


 依吹のお姉さんは気丈に振る舞いながらも、目が真っ赤に腫れ憔悴しきった顔をしていた。


 なぜこんなお姉さんを依吹は支えてあげないのだろうと、少し腹立たしい。


 でも依吹も依吹で哀しんでいるのだ。


 きっと今どこかに一人でいる伊吹のことを考えると、急に依吹に会いたくなった。


 一凛は葬儀場を抜け出し動物園に向かった。


 依吹はそこにいる。


 なぜか一凛には確信があった。


 

 依吹の動物園を訪れるのは久しぶりだった。


 平日でもぽつぽつと客はいた。


 依吹はベンガルトラのところにいるような気がした。


 一凛は急ぎ足で園内を進む。


 頭上ではカラスが大人しく一凛を見下ろしている。


 トラの前に依吹はいなかった。


 檻の中では一匹の大きなトラが目を細め雨の匂いを嗅いでいる。


 その姿に獰猛さはなくまるで大きな猫のように見える。


「ねえ、依吹を知らない?」


 一凛は檻の奥に訊ねた。


 トラは耳だけこちらに向けたが応えてくれる様子はない。


「依吹ここに来なかった?」


 今度は耳さえも動かさない。


 一凛はあきらめ檻の前から離れる。


 依吹がいそうな動物の檻を手当たりしだい回ったがどこにも依吹はいなかった。





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