雨の動物園(5)
ひときわ太い光が空を走り抜けた。
そのとき動物園の奥から低い叫び声のようなものが聞こえた。
心臓がどきっとするほど哀しい声だった。
声は光を追ってやってきた雷の音で掻き消される。
一凛は耳を澄ました。
雷の音の余韻を縫いまた声が聞こえてくる。
誰が叫んでいるの?
眩しいくらい周りが明るくなったかと思うと、空気が振動するほどの爆音が炸裂する。
一凛は思わず両手で耳を塞ぎしゃがみ込んだ。
心臓の高鳴りがおさまるのを待って立ち上がった時にはもうその声は聞こえなくなっていた。
それでも一凛はしばらくその場で声がまた聞こえてくるのではないかと待った。
一凛を驚かせた雷が遠くで控えめに轟く。
柵の中は静まり返っていた。
雨の降る音が聞こえてくるだけで、さっき聞こえた声は闇のどこを探しても見つからなかった。
「あなたは誰?」
気づくと頬が濡れていた。
温かい雫が目から溢れる。
一凛は自分の胸を押さえた。
これは何?
この喉が渇くような、息苦しいような胸の痛みは何?
一凛は駆け出した。
そうせずにはいられなかった。
得体の知れない何かが自分を焼き尽くそうとしているようで怖かった。
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