雨の動物園(4)



「依吹はさすが動物のことよく分かってるよね、将来はやっぱりお父さんをついで動物園の園長さんになるの?」


 一凛は依吹に訊ねる。


「ならないよ」


「どうして?依吹は動物好きじゃない」


 何も答えず黙々と歩き続ける依吹はもしかして何か怒っているのだろうかと一凛が思い始めたころ、二人は動物園の正門にたどり着いた。


「じゃあ一凛、俺こっちだから、またあした」


 いつもの依吹だった。


「うんあした。今日はありがとう」


 依吹は口の端を少しだけ上げて笑った。


 依吹と別れて少し歩いたところで一凛は、あっ、と立ち止まる。


「今日はバレンタインだった」


 もういないと分かっていても依吹が歩いて行った方向を見る。


『お世話になってる男の人には一凛ちゃんもちゃんとしたほうがいいよ』


 ほのかの言葉を思い出す。


 依吹には昔から今でもずっと世話になっている気がする。


 自分は依吹に義理チョコを渡すべきなのだろうか?


 でもなんだか違う気がした。


 それに依吹もそんなもの欲しがっていないように思える。


 しばらく動物園の柵に沿って一本道を道なりに歩く。


 優しい雨だったのが激しくなってくる。


 地面と一凛の傘を叩き壊すような雨が落ちてくる。


 一瞬ぱっと周りが明るくなったかと思うと、黒い空を閃光が切り裂く。


 しばらくすると遠くで低い音がゴロゴロと響いた。


 少しするとまた空が光り、今度はそう間をあけずにさっきより大きな音が鳴る。


「きれい」


 光る空を一凛は見上げる。


 今、どれくらいの恋人たちが肩を寄せ合いこの雷を眺めているのだろうか。


 いつか自分も大人になったら、誰かと一緒に雷を眺めたりするのだろうか。





 


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