止まない雨(6)

結局それは課外授業の日まで続いた。


 いつもだったらこういう日は必ず一凛はほのかと行動を共にするのだが、ほのかは別の女子たちのグループに加わり、一凛はひとり取り残された。

 

 植物園には色とりどりの花が雨に濡れて咲いていた。


 温室に入るとねっとりとした空気に圧倒される。


 一凛はすぐに外に出た。


 雨の混じった空気がいつもより澄んで感じて深呼吸をした。


 課題は好きな花を一種類選びそれをスケッチすることだった。


 ほとんどのクラスメイトは温室に咲くカラフルな花を選んでいるようだった。


 一凛はスケッチブックが広げられそうな場所を探して園内を歩いた。


 少し歩くと藤棚があった。


 紫色の花がぶどうのようにいくつも垂れ下がっている。


 その下に依吹がいた。


依吹はすぐに一凛に気づき、「よお」と小さく言った。


「ここ濡れない?」


「ぎりかな」


 一凛はベンチに腰かける。


「じゃあここにしようっと」


 スケッチブックを広げ色鉛筆を取り出す。


 一番おおぶりな花を選んでスケッチを始める。


 ときどきスケッチブックの白い紙の上にぽたりと雨雫が落ちた。


 依吹の方を見るとスケッチブックを開いてさえもいない。


「描かないの?」


「描くよ」 


 依吹はスケッチブックを開く。


 そして動きを止める。


 ああ、と一凛は気づいた。


 依吹の色鉛筆のケースの中から紫色を取り出し依吹に差し出す。


「これだよ藤の花の色は」


 依吹は黙ってそれを受け取った。


 一凛は自分のスケッチブックに視線を戻す。


 横で依吹が手を動かす気配を感じると一凛もスケッチの続きを始めた。

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