止まない雨(5)

一凛は産まれてから一度も雨が止んだのを見たことがない。


 それを両親に言うと二人は「雨が降らないと困るじゃないか」と笑った。


 雨が降らなくて困ることなどあるのだろうか?


 考えても思いつかない。


 それよりも雨が降らなければ動物たちも殺されることはないのにと一凛は思う。


「それがこの世界だから仕方ないさ」


 依吹はぶっきらぼうに言った。




 教室に入ると遅れきた一凛と依吹をクラスメイトたちが冷やかす。


 担任の先生が「静かにしなさーい」と声を張り上げる。


「来週の課外授業は植物園になりました」


 喜びと不満の正反対の声が同時にあがる。


 一凛の背中を後ろの席の子がつつくので頭だけ向けると小さく折り畳んだ紙を渡された。


『いちかちゃん行き』と書かれている。


開いてみると、『やだ課外授業の日ってバレンタインだよ。三組はどこに行くのかなあ、大河くんにチョコ渡せなかったら最悪なんだけど。  ほのか』と書かれている。


 廊下側の席のほのかの方を見ると、すました顔をして黒板の文字をノートに書き写している。


 返事を書こうか迷ったが『そうだね』とか『ホント最悪』とかそんな言葉しか思いつかなかったし、ホームルーム中にわざわざ何人もの人を使って送ってもらうのも気が引けそのままにしておいたらほのかはひどく怒って口をきいてくれなくなった。


 ほのかの両親を初めてみた時は、おじいちゃんとおばあちゃんかと一凛は思った。


 遅くにできた一人娘を溺愛して育てたようでほのかは少し我が儘なところがあった。


 この時も放っておけばそのうち機嫌が直るだろうと思っていたら違った。


 ほのかは一凛のことなど見えていないかのように、他の女子たちと楽しそうにチョコの話で盛りあがっている。


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