止まない雨(4)
「なんでいつもあいつらなんだろ」
大雨が続くとそれを鎮めるために生け贄が差し出された。
たいがいは生きたまま氾濫する川に重しをつけて鎮められる。
「だって人間がなるわけにいかないよ」
初めて生け贄の儀式が行われる光景を見た時は衝撃すぎて一凛は数日間しゃべることができなかった。
その時はそれほどの大雨ではなかったので一羽のニワトリだった。
それでも波のように川辺に打ち寄せられた水に白い羽根が何枚も浮いているのを見たときは体中の力が抜け一凛はその場にしゃがみこんでしまった。
最後にニワトリが叫んだ『みずぅ』という声がいつまでも耳に残り、それは耳鳴りとなって一凛を苦しめた。
学校も休んだ。
三日後の朝依吹が迎えにやって来た。
「あのニワトリはお爺さんニワトリだったからさ、どのみちそう長くは生きられなかったんだよ」
依吹の家は動物園だった。
正しく言えば依吹のお父さんは動物園の園長さんで、生け贄の動物たちはたいがい依吹のお父さんの動物園から選ばれた。
去年のトラの後、何日間も学校に来ない依吹を今度は一凛が迎えに行った。
しぶしぶ玄関先に出て来た依吹の顔はむくんで膨らんでいた。
でもその顔よりも一凛が驚いたのは、依吹のお姉さんが「ほら早く」と依吹の肩に触れようとしたとき、「さわるなぁー」と依吹が大声で叫んだことだ。
引っ込めた自分の手を胸の前で握りしめる依吹のお姉さんは泣きそうな顔をした。
予鈴が鳴った。
「なんで雨って降るのかな」
一凛は呟いた。
重そうな灰色の雲から毎日毎日、一日も休むことなく雨は落ちてくる。
朝がきて夜がくるのが当たり前のように毎日雨は降る。
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