止まない雨(3)

みんな好きな男子の話をするときは一様に頬を赤く染めたり、早口になって声を潜めたりしてとにかく挙動が不審だ。


 そして話している本人だけではなくそれを聞いている周りの女子たちもいきなり、キャーとかイヤーとか声をあげたりして、何をそんなに興奮しているのだろうかと一凛には不思議で仕方がない。


 一凛は恋をまだ知らない。


 ほのかのように一凛と依吹を引っつけたがる女子が他にもいるが、依吹はただの幼馴染だ。


 彼女らのように依吹のことを考えてひとり興奮なんて絶対にない。


 いつか自分も男子のことで挙動不審になるのだろうか?


 そんな自分は想像できない。


 バスが校門の前で止まると前方と後方の二つのドアから子ども達が外へ飛び出していく。


 ポン、ポン、ポンと色とりどりの小さな傘が咲く。


 一凛が傘を開いた時、大きな赤い傘はずっと先を移動していた。


 靴箱の前で上履きに履き替えようとして、「一凛」と呼ばれる。


 依吹が温風機の前に立っていた。


「ちゃんと乾かせよ」


 一凛は濡れた靴下を脱いで温風機の前に立った。


 前にこっそりお母さんのマニキュアを足の爪に塗った残りがまだ破片のように爪に残っている。


「依吹教室行かないの?ホームルーム始まるよ」


 依吹は窓の外を見上げたままぽつりと言った。


「最近また雨がひどいな」


 その声はひどく憂鬱気だった。


 一凛はすぐに依吹が何を考えているのか分かった。


「うん、そうだね、困るね」


 去年、依吹が可愛いがっていたベンガルトラが生け贄になった。


 産んだあと面倒をみようとしない母トラの代わりに依吹が育てたトラだった。


 イブキ、イブキ、と子トラは依吹の名を呼び懐いていた。



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