止まない雨(2)

「ねえねえ一凛ちゃん、今度のバレンタインやっぱり依吹くんにチョコあげるの?」


 耳元で囁かれ一凛はくすぐったくて首をすくめた。


「ほのかちゃんは誰にあげるの?」


 そう答えてそれでは依吹にチョコをあげると返事をしているようなものだと気づきすぐに訂正する。


「あげないよ、チョコはお父さんだけ」


 ふーんと、ほのかはちょっとつまらなさそうな顔をしたがすぐに「わたしはね」と顔を紅潮させた。


 ほのかの口にした大河くんというのは一凛の知らない男子で、誰かと訊ねると三組のクラスの子だと言う。


 前にクラス対抗のドッジボールをした時に見て好きになったのだそうだ。


「本命チョコは大河くんだけど、同じクラスの男子の何人かにもチョコ配るよ。あと隣の家のお兄ちゃんとバスの運転手さんにも。とりあえず普段お世話になってる男の人には全部義理チョコ配るんだ」


「すごいね、ほのかちゃん」


「バレンタインは女子にとってお中元やお歳暮と同じようなもんよ。一凛ちゃんは勉強はできるけどさ、そういうとこもちゃんとしといたほうが将来のためだよ」


 ほのかが自分よりずっと大人に見え、一凛は「すごいね、ほのかちゃん」と惚けたように繰り返した。


「でね、大河くんにはやっぱ手作りだと思うんだよね」


 ほのかは「大河くん」と言う時、本当に嬉し楽しそうな顔をする。


 普段は右目尻下にある泣きぼくろが大人びて見せているが、こういう時は本来の幼さが前面に出てくる。


 一凛はほどよくほのかのチョコの話に付き合いながら窓の外を見やった。


 さっきより雨が激しくなったようで町が煙って見える。


 ほのかだけではない、他のクラスメイトの女子たちも最近昼休みや下校時に好きな男子の話ばかりする。


 正直一凛には彼女らの気持ちが分からない。



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