雨の降る世界で私が愛したのは
八月 美咲
第一章 止まない雨(1)
十一個目の水溜りを飛び超え損ねた一凛(いちか)は右足を思いっきり濡らしてしまった。
「ほんとに一凛はドジだな」
背後で呟かれ振り返ると同時に水滴が飛んできて一凛の顔に当たった。
赤い傘をくるんと回し、依吹(いぶき)がククッと笑う。
いつものように怒るのではなく一凛は依吹の傘をじっと見た。
「なんだよ」
「べつに」
二人は並んで歩き出す。
「学校に着いたら足、温風機で乾かすといいよ」
自分も水をかけておきながら依吹は優しく言った。
「うん、でも濡れるのは慣れてるから。それに依吹の傘、別に変な色じゃないよ」
「うん」
昨日はひどく風の強い日だったから依吹の傘は壊れてしまったのかも知れない。
大きな大人用の赤い傘はきっと依吹のお姉さんのものだ。
一凛は頭の上の自分の傘を見上げる。
ピンクの水玉模様の子どもっぽい傘。
歳の離れた依吹のお姉さんはとても美しい人でいつも長い髪を綺麗に結っていた。
それに比べると一凛は水溜りに映るおかっぱ頭の自分を見つめる。
自分も早くあんな傘が持てる大人の女性になりたいと思った。
交差点の一角でスクールバスがやってくるのを待つ。
普通のバス停のように目印も時刻表もないけど、バスは学校がある日は必ず見えない時刻表に従ってやってくる。
今朝もいつも通り雨の中バスがやってきた。
バスに乗り込むと乾いた温風にぶわっと煽られる。
いつもの運転手のおじさんに挨拶をし奥へと進む。
「おはよ一凛」
「おはよ依吹」
声をかけられ二人はそれぞれの友人の隣に座る。
二人が並んで座らなくなったのはいつ頃からだろうか?
先に行動を起こしたのは依吹の方だった。
裏切られたような複雑な気持ちだったことを一凛は覚えている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます