旅の始まり:真実への第一歩

第二十七話 旅立ちの時


 旅立ちの時と聞かれると、大体は卒業式をイメージすると思うのだが、この世界に学校や卒業式はあれど、今この時ほど別の意味に聞こえることは無いのでは無かろうか。


「それじゃ、レフィー。俺たちはもう行くね」

「はい、どうかお気を付けて」


 佐伯さえき君と姫様がそう話す。

 というのも、本日はいつ来てもおかしくはなかった、旅立ちの日である。


   ☆★☆   


 そもそも、エルと話したあの時から何があったのかと言えば、特にそんなに変わったこともなく、ただ軽いリハビリのつもりで身体を動かしたり、彼や佐伯君たちと駄弁だべる日々の連続としか言えない。

 それと、前回できなかった登録と一応の様子見も兼ねて冒険者ギルドの方にも顔を出したりはしたが、私たちに喧嘩を吹っ掛けてきたあのグループは相当注意されたのか、こちらに近寄ろうともせず、あのとき心配してくれてた人たちには、また何かあったら頼るようにとまで言われてしまった。

 早々に頼るということも無いんだろうけど、無くて困るようなものでもないので、そのときには是非に、と返しておいた。……現状、女は私一人だしね。

 まあ、そんなこんなで、城の裏門にて姫様に見送られつつ、私たちは城下に出るために歩き出す――


「そういえば、最初に向かうのは『クロヴェイラ』か」


 ――のだが、旅するメンバーは私と佐伯君、鳴海なるみさんの召喚組とエルとアルストリアという現地組。

 はっきり言って、男女比が5:1なのだが、私たちの事情も知らない誰かがはたから見れば、完全なる逆ハーレムです。嬉しくない、全く嬉しくない。

 そもそも、アルストリアに姫様の護衛から外れても問題ないのかと問えば、親指を立てて「何の問題もありません!」と言われてしまった――護衛主である姫様本人に・・・・・

 上が許可したのなら、連れていかないわけにもいかないので、とりあえず私が見知らぬ場合のガイドとして扱うことにした(私だけ、だが)。


「そうだね」

「どんなとこかなぁ」


 城と王都以外を知らないからか、どこかわくわくした様子の佐伯君ではあるが、さて、どうしたものか。


「『クロヴェイラ』について、教えた方がいい? それとも、着くまで楽しみにしてる?」

「んー、どうしよっかなぁ」

「距離はどれぐらい掛かる?」


 迷う素振そぶりの佐伯君を余所に、鳴海さんがあっさりと聞いてくる。


「徒歩だと三日だね。馬車使っても、約一日半……なんだけど、まさか、新しい道とか出来てないよね?」


 それが有るか無いかによって、行動の仕方も変わってくるので、確認の意味も込めてアルストリアに目を向ければ、「近道は出来てないし、そもそも新規の道があるのは別方向」と言われてしまった。

 でもそうか、あるのか。新しい道。国の一部が大森林と接してると、新しい交通の弁はいやでも必要になりそうだからなぁ。


 さて、そんな私たちは今、アルトリア国王都を真ん中に、東西へと一本の道で突っ切るかのような形で位置しており、主要街道の一つでもあるラフィルス街道の東側を歩いている。

 ヘレ君ことヘレケントスが来て、戻っていった西側とは逆方向である。


「それにしても、やっぱり慣れてるんだな」


 私たちの荷物と自分たちの荷物を見比べながら、鳴海さんが言う。


「正直、亜空間バッグのおかげですね。大容量だから、手に持つ分も少なくて済みます」

「本当、魔法って凄いよね」


 佐伯君が会話に加わってくる。

 私たちの世界は魔法が無かったから、余計に凄く感じるんだよね。

 だからこそ、普通は出来ない時空間への干渉なんて、馬鹿げたことも出来るんだけど。


「それにしても、俺たちもやっぱり馬車に乗るべきだったかな?」


 こうして話しながら、歩いている間にも、私たちの横を数台の馬車が通っていくのだが、それを見た佐伯君がそう告げる。


「まあ、金銭面に余裕はあるから、別に乗っても良かったんだけどさ。どうしても、当時の状況に引っ張られるんだね」


 基本、徒歩だったこともあり、本当に焦っているときや必要だったときを除き、馬車を使わなかったからなぁ。

 使ったら使ったで、物凄い振動が来て、酔ったり酔いそうになったりしたこともあったのは、良い思い出だ。


「そうそう、アルスが何気なく鍛え方が足りないとか言って、女性陣から冷たい目を向けられてたこともあったしね」

「おい」


 相変わらずの笑い方をしながら言うエルに、アルストリアがムッとして声を掛ける。


「それに、馬車と言えば――」

「それ以上、口を開くな」

「怒るなよ。それに、事実じゃん。俺は真実を述べたまでだし」

「……おい、エル」


 「いい加減にその口閉じろぉぉぉぉ!!」と、完全に怒ったらしいアルストリアがエルを追い掛けていく。

 アルストリアには『あんなに怒らなくてもいいのに』と思う反面、エルに対しては『懲りない奴』と言うべきか。


「元気だねぇ」


 まだ歩かないといけないと言うのに、あんなに走っていって大丈夫か?


「俺たちも走るか?」

「このまま、ゆっくり歩いていきましょう。走ったところで目的地に着くわけでもありませんし、どうせ疲れます」


 アルストリアたちは適当に休ませるなり、疲れさせておけばいい。


「あはは……でも、本当にあの人たちのこと分かってるんだね」

「仲間だからね」


 だからこそ、私は彼らを放っておけないし、彼らも私を気にしてくるのだ。

 少し進めば、追い駆けっこを止めたらしい、近くの岩に腰掛けて休んでいる二人の姿が目に入る。


「やっと来たか」

「やっと、って……勝手に、先に走っていったのは、そっちでしょ」


 後に来た私たちが、文句を言われる筋合いはないと思うんだけどなぁ。

 とりあえず、私たちも水分補給するなりして、休憩する。出来る時にせず、したい時に限って出来ないなんてことは経験済みである。


「そういや、セナ」

「何?」


 エルに声を掛けられたので、彼に目を向ければ。


「さっきのこと、否定も何もしなかったな」

「……」


 何で、こいつは自分で自分の首を絞めてるんだろうか。


「って、うわ、ちょっ、アルスっ!?」

「どうやらお前は、分かっていないようだな」


 そこに触れさえしなければ、アルストリアを怒らせることもなければ、せっかく回復した体力を失わずに済んだというのに。

 そんな関節技を掛けているアルストリアと、それを決められているエルを見ながら、彼に返事をする。


「あったかどうかを言うのであれば、あったとしか言えないけど、私はエルみたいにいじろうとは思わないよ。そういう役目・・・・・・はエルだけで充分だろうし」

「『そういう役目』って、酷くない?」

「酷くない」


 そのまま男どもを放置して、歩き出す。

 あんな言い方をしてしまったが、私はこれでも――エルには感謝しているのだ。

 だって、彼のお陰で、元・勇者一行わたしたちはバラバラにならなくて済んだことがあったのだから。


「あれ、何だか楽しそう……?」

「まあ、不機嫌そうにされるよりはいいんじゃないか?」


 そんな私の様子に、背後で男性陣が不思議そうにしていたことを、私は後で知ることになる。

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