第二十五話 反動は筋肉痛のように


 この世界は魔法が使える。

 使えない世界から来た私たちからすれば、夢のような世界だ。

 けれど、そこにも『ルール』というものはきちんと存在しており、そのうちの一つが、『大きな力には、必ずしも何かしらの対価や代償がある』というものだ。

 ――で、だ。


「……反動ヤベェ」


 使った昨日はそんなに反動が強くなかったために、アルストリアたちと話していたわけだが、朝になってこの有り様である。

 つまり、この闇魔法の反動は、筋肉痛みたいに後で来るものであり、それが私の場合は使用した翌日の今、使用直後の時に比べ、遅れて、尚且なおかつ倍になって来たというわけである。何故だ。


「……このままだと、朝御飯も抜きなのか……」


 朝は食べる派であり、寝起きすぐにでも食べられる派な私にとって、朝食抜きは正直キツい。

 なので、頑張って動いてみるが……


「――ッツ!?」


 やっぱり痛い。

 これが闇属性耐性がある魔族と無い人間族の差なのかとは思うが、今はこの後のことを考えるべきである。


「これからも使ったとして、これが続くのは嫌だし、何とか耐性付いてほしいところだけど……」


 結局、あの闇を纏ったときの安心感は何だったのだろうか。

 あれか? 死なない的な意味での安心しろってことだったのか?


「……まあ、それはそれで良いんですけどねー……」


 とりあえず、動けないこの状況下での問題は、やはり食事や入浴などではあるのだが、実は服についての心配をする必要は無かったりする。昨日話し合った後の姿のままだから、然程さほどおかしな格好はしていない……はずだ。


「問題は、この状況をどう伝えるのか、だけど……」


 そもそも、誰かこの部屋に来てくれない限り、状況把握は難しいのでは無いのだろうか。

 そうでなければ、腹は減るだろうし、何より一日中寝たきりのままである。


「来るのなら、姫様辺りが良いなぁ」


 姫様なら、気を使ってくれるだろうし、色々と手配をしてくれるはずだ。

 だが、もし男性陣が来た場合……


「……うん、駄目だ」


 何かもう、嫌な予感や想像しか出来ない。


「……」


 ……何も出来ないとなると、暇だなぁ。

 そのまま、そっと目を閉じる。


 ――……ん、ごめんな。辛い思いをさせて。


 どこからか、声がする。

 声の主は分からないし、そんな誰かに謝られるようなことをしてはいないはずなのだが、それでも、声の主が謝ってきたということは、何かしてしまったのだろう。

 でも、謝罪してきた相手が悪いとは思えなくて。


「――貴方が謝る必要はないよ。むしろ、謝らないといけないのは私なんだから」


 きっと、こちらにも何らかの非があったはずだろうから。


 ――どれだけ遅くなろうと、待ってるから。


 声がどんどん遠ざかっていくのを理解しながらも手を伸ばすが、なかなか掴むことが出来なくて。


「――待っ……!」


 そう声を出して気がつけば、目を閉じる前にも見ていた天井。


「何やってんだ、お前」

「え?」


 声を掛けられて、そちらに視線を向ければ、エルに呆れたような目を向けられる。


「え、あ、夢……?」


 そっと腕を下ろそうとして、そのまま手のひらを見つめるが、そこには何もなくて。


「お前からの反応が無いとかで、殿下が慌てて呼びに来たから、何事かと思ったんだが、単に夢を見てただけで良かったよ」


 夢は夢でも悪夢みたいだったがな、とエルは言うが――


「悪夢?」

「俺が様子を見てるときも、結構な頻度ひんどうなされてたからな。悪夢じゃないならいい」

「……そう、なんだ」


 でも何で、魘されていたんだろう。

 私が見ていたものが、そのまま反映されていたのだとすれば、そんなに魘されるようなものでもなかったはずなのに。


「とりあえず、あいつらがパニクって、余計なことをしないように別室で待機状態だから、動いて何ともなさそうなら、起きて顔でも見せてやれ」

「うん……迷惑掛けて、ごめんね」

「俺にはそれでいいが、殿下には感謝しとけよ。もし誰も呼びに来なかったら、どうなっていたのか分からないんだから」


 エルの言い分が正しいのもあるので、頷いておく。


「そうだね。エルも見ていてくれて、ありがとう」

「……別に」


 彼にしては珍しく照れているのか、その顔を背けられるが、私が感謝しているのは事実だから。

 少しばかり微笑んでみせれば、そのことへの仕返しなのか、「夕飯抜きな

」とエルに告げられ、慌てて言い訳をする羽目になってしまったのは余談だ。

 その後、動けない理由を簡単に説明したのだが、安堵と不安の意を聞かされ、謝罪を繰り返したのは言うまでもないのだが。


「次も同じことが起きたら、闇属性は使用禁止な」


 多分、次使っても問題は無いんだろうけど、そんなことを言ったら、注意してきたアルストリアに怒られそうだったので、そこは素直に従っておいた。


「……それにしても」


 あの夢の中で、『待ってる』と言ったあの声の主は、誰だったんだろうか――……

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