第二十四話 記憶を辿りて


「……」


 絶対に逃がさないという意志の元、アルストリアたちとともに城へと帰還。そして、今は着替えて、一段落ついているところ。

 さぁて、どこから話したものか。

 いや、この場合はどっちから話すべき?


「それじゃ、話してもらうか」


 早い。早いです。アルストリアさん。


「話すにしてもなぁ……」

「そんなの、時系列順でいいだろ」


 エルはもう、またそうやって言うんだから……


「えっと……その前に、自己紹介しようか。佐伯さえき君たちもエルも、お互いにまだ名乗ってないでしょ?」


 もしかしたら、隠れていたときにしていたのかもしれないが、念のため、ね。お互いに名乗り終わっているのなら、もういいんだけど。


「まあ、そうだな。俺はエルヴィン。家名は無いが、元勇者一行の一人だ。ちなみに、職業は盗賊シーフな」

佐伯さえき彼方かなたです。一応、勇者をやらせていただいてます」

「勇者?」


 エル、怪訝な顔して、こっちを向くんじゃない。


鳴海なるみ柚希ゆずき。一応、召喚された側としては一番年上ではあるが、あまり期待しないでもらえると助かる。基本的にサポートメインだ」

「そうか」


 あ、次。私ですか。

 もう、こうなったら自棄やけである。


「じゃあ、ざっくりといきましょうか! 佐伯君たちが召喚される前に『勇者』だったのは私です」

「本当にざっくりとしてんな」

「鳴海さん!」


 いちいち突っ込んでるとキリがないからとばかりに、佐伯君が鳴海さんに突っ込んでいるが、そのまま続けさせてもらいますよ?


「で、召喚された後、私の召喚国であるレレイラでは、勇者一行の選抜式が行われました。アルストリアはこの国アルトリアから代表で来たうちの一人だったよね?」

「そうだな」

「他にも魔導師とか神官とか居たけど、それは追い追い話すことにするよ」


 省略できるところは、省略させてもらいます。


「旅については、アルス・・・たちも知っての通りで、何かあったとすれば、途中でエルが加入したことぐらいだったし」


 二人もうんうんと頷いてるから、それが事実であることは、佐伯君たちにも伝わったはずだ。


「最初から一緒だったわけじゃないんだ」

「道中で何度も会ってたら、妙な情が芽生えて、そこから一緒に行動するようになったんだよな。実際、俺一人じゃ無理な場所も攻略することが出来たし。帰ってきたら、同職の間で一躍有名人だ」


 うわぁ、エルってば、そんなことになってたんだ。


「で、魔王に単身で挑んだ理由は何だ? ん?」


 話が一気に飛んだ気がするが、まあ、アルストリアたちにとっては、こっちが本題だから、聞きたくてしょうがなかったんだろうけどさぁ。


「いや、その……」


 逃げるのは無しって言われてるのは分かるんだけど、うーん……


「実はあんまり覚えてないので……」

「は?」

「いや、話したくないとかではなく、正直あの辺りの記憶が酷く曖昧だから、話そうにも話せない、の方が正しいと言いますか……」


 本当にこれなのだ。

 魔王が何かしたのか、私が思い出したくないのかは分からないが、あの時のことはまだ思い出すなとばかりに、もやが掛かったかのような感覚や頭痛で思考を強制ストップさせられるのだ。


「あいつの家族云々については?」

「無意識にこれだけは絶対に伝えないといけない、って思っていたのかもね」


 泣いてたことに関しても、感情の関係で覚えていたのかもしれない。


「……」

「……」


 何だろう。まだ疑われてる気がする。


「は、話したよ? はっきりと覚えてる限りで、だけど」

「……」

「……アルス」


 相変わらず納得できなさそうなアルストリアに、エルが溜め息混じりに声を掛ける。

 ごめんね、二人とも。本当に全部が全部、話せないんだ。魔王との約束・・・・・・もあるし。


「ここまで話してもらえただけでも、今は良しとしよう。――セナ」

「はい」

「また何か思い出したなら話せよ。絶対に」

「……うん」


 イケメンに凄まれると怖いね。

 というか、エル。アルストリアよりも、実は気にしてないか?


「それで、これからどうする? 俺は今回成り行きで城に泊まることになったが、今後のことを決めておいて損は無いだろ」

「……まずは、レレイラに行く」

「セナ?」


 だってあそこには、私の使っていた聖剣があるから。取りに行かなければならない。

 面々が不思議そうな顔をしてくるが、私にはまだやらなければならないことが残ってるから。


「私はレレイラに行く」

「一人で行くつもりか?」

「それだけの力があると、自負してるけど?」


 勇者としての力は本物であると思いたい。

 新たな勇者が喚ばれたとはいえ、まだその力が完全に失われたとは思いたくない。


「確かに、お前の力は本物だろうが、一人っていうのもなぁ……」

「なら、俺が同行する」


 アルストリアの不安そうな声に、エルが何やら言い出した。


「え、それはちょっと困る」

「何で」

「だって私、刺されたくないし」


 視線でアルストリアに同意を求めてみれば、「そういや……」と旅の間のことを思い出したらしい。


「まあ、あいつらのところに行かなきゃ良いんじゃないか?」

「そうも行かないでしょ。噂で知られたら、何で来ないって、文句言われるだろうし、そこでエルと二人で行ってみなよ。「絶対に私も行く!」って、なりかねないよ」

「……言い出しそうだな。あの二人なら」


 何だかんだで、私たちのパーティは仲が良かった方だとは思う。

 だから、恋愛で殺傷沙汰など起きないとは思っているが、あくまで予測である。だって、恋は人を変えるというから。

 そんな私たちが遠い目をしていたからだろう。佐伯君たちがエルに聞いていた。


「そんなに面倒な人たちなんですか?」

「いや、仲は良好そのものだったし、特に変人という変人が居たわけではないな。物理特化とか魔法特化とか回復特化とか居ただけで。ああ、術式マニアも居たか」

「おいこら、エル。それは私のことを言ってるのか。なぁ、エル」


 目を逸らして、何も返してこなかったが、それは肯定とみなすぞ。


「名前を出してないのに、誰のことを言ってるのか分かる時点で、本当に仲良しだったんだな」


 鳴海さん、しみじみと言わないでください。


「それは否定しませんよ」


 だって、私が魔王城に単独で乗り込んだりしなければ、帰るときもどちらかといえば、和気藹々わきあいあいとしていたはずなのだから。

 でも、こちらにも目的はある。元の世界に戻るのを遅らせてまで、この世界に残った理由が。


「それじゃ、私は話すことも話し終えたので、自分の部屋に戻らせてもらいます」


 さすがにもう、戻ってもいいよね?


「仕方ないな」


 いくら着替えたとはいえ、疲れは溜まってるのだ。

 結局、今日はそのまま解散することになった。


「セナ」

「はい?」

「無理だけはするなよ?」


 エルからそう言われて、何も返すことは出来なかった。

 ただ、私が答える前に、彼が部屋に戻ってしまったっていうのもあるのだが。


「無理、してるように見えたのかな……」


 そんなに疲れてるように見えていたのかは分からないけど。

 その気遣いは、やっぱり嬉しくも思えて。

 だからこそ、あの子も彼を好きになってしまったのかもしれない。


「頑張らなきゃなぁ」


 たとえ、どのような結果になろうと、私は私の『目的』を果たすまでだ。


「……」


 だから、そんな私が部屋に入るまで、鳴海さんがこちらを見ていたことなど、気付くことはなかった。

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