第二十二話 魔を打ち払わん


 ――ラフィルス街道。

 アルトリア国王都を真ん中に、東西へと一本の道で突っ切るかのような道で、主要街道の一つでもあるその西側上空を、一人の青年が移動していた。


「ったく、あれだけ行くなって言っておいたのに向かうとか、本当なに考えてんだ」


 思わず舌打ちしたくなるが、しても現状が変わるわけでもないので、移動に専念する。

 そして、目的地に近付くに連れて、とあることに気づく。


「この魔力――」


 以前、会ったことがあるせいか、よく知る魔力を感じるが、この国どころか、この世界に居るはずもない『彼女』の存在が脳裏に浮かぶ。


「まあ、本人だろうが偽物だろうが、られる前にあのバカを回収しないとな」


 遭遇して、戦闘になっても面倒だ、とでも言いたげに、青年は回収目的のルトゥキウスが居るであろう方面へと向かった。


   ☆★☆  


「『全力』に決まっているだろうが!」


 魔族ことルトゥキウスが叫ぶように言う。

 まあ、大体予想通りの返答をしてくれたわけだが、彼が指定してきた『全力』――それはつまり、私に『闇属性』も使えということだ。


「だそうだよ、二人とも。お望み通り、解放可能範囲まで解放して、奴らを叩き伏せようか」


 二人からの返事は無いけど、何となく視線が痛い。

 つか、無言で文句言われてるような気分。


「……この辺一帯の地形を変えてもいいのか? アルストリア」

「何をするつもりなのか、知りたくはないから聞かないが、それは止めてくれ」


 エルの確認に、アルストリアが頭が痛そうにしながらも言う。

 そりゃ、アルストリアの場合は、下手すれば自分の首が飛びかねないもんね。


「ごちゃごちゃと何を話している!」

「そっちが『全力』で来いって言ったから、どれくらいまでの被害なら許されるのかの確認?」


 何故、疑問系なのかを問われると困るが、そうとしか説明できないのだから困る。


「でも、あいつらの命の保証はしなくていいよね?」

「まあな」


 向こうからこちらを攻撃してきたのだから、このまま正当防衛を続行させてもらおう。


「それじゃあ、二人とも。時間稼ぎの方、お願いね」

「やっぱそうなるのか」


 走ったり、回避したりと、とにかく同時に何をしていようと、詠唱は時間が掛かる。


「でも、予想はしていたでしょ?」

「何となく、そうなりそうな気はしてたよ」

「で、どれくらい稼げばいい?」

「一分から三分ぐらいで」


 溜め息混じりなアルストリアを余所に、エルが確認してきたので、そう返しておく。 


「分かった」

「ただ、なるべく一撃で仕留めるつもりではいるけど、ミスったらごめん」

「やる前から謝るな。もし謝るなら、ミスってから謝れ」


 それだと「謝ってる場合か!」と言われそうなんだけど。


「うん、サポートは任せます」


 さて、どこから打とうか――なんて、もう決まってるけど。

 アルストリアとエルが駆け出したのを視界に入れつつ、私は私で近くの民家の屋根の上を移動する。

 二人が時間稼ぎを始めてくれたのだから、こちらも一秒たりとも無駄にするわけにはいかない。


「『魔を交わりて、汝の力を呼び起こさん』」


 たとえ、どちらかを外すことになったとしても、どちらも外すことになったとしても、文句を言われるぐらいなら前者の方がまだマシだし、それでもやっぱり、どちらも外すわけにはいかないから。


「『思い 祈り 願い 我が全てをもって のものを打ち払わん』」


 詠唱開始と同時に先程よりも増して、闇が私にまとわりついていると言うべきか、くっついていると言うべきか。とにもかくにも、こんな見てくれだというのに、痛みも無ければ、この身をむしばむような何か――嫌な気や悪い気も感じない。

 むしろ、「大丈夫だから、気にせずやれ」とでも言われている気分である。


「『我が魔を糧に 我が元へと来たれり』」


 いかにも砲撃準備とばかりの魔法陣が三つ重なる。

 それを見たルトゥキウスの表情が変わる。


「人間風情が、このに及んでまだ闇を――ッツ!?」

「何で『闇』をそんなに使われたくないのかは未だに分からないし、分かりたくもないんだが」

「それでも、お前はその『闇』に殺られるかもしれないんだから、あわれだよな」

「このオレが憐れだと!?」


 何やらギャーギャーと下で騒いでいるが、無視である。


「――っ、セナ!」

「やれ!」


 それでも、揃ってしまったから。

 ルトゥキウスと魔物が、縦一直線に並んでしまえば、後はもう、こちらのものだから。


「『の者をめっせし汝は 我が槍なり』」


 跳躍し、縦一列となった真上からの最後の一言。

 これで、詠唱終了と同時に魔法は発動される。

 そして、準備されていた魔法陣から放たれたのは、強力な砲撃魔法にして殲滅魔法。


「な、んで――」


 最期の光が迫る中、ぽつりとルトゥキウスから言葉が洩れる。


「何故なのですか。魔王様――」


 彼が魔王を慕っていたのは分かるが、どれだけ彼のことを慕っていたのかまでは分からない。

 でも、そう言ったってことは、きっと一瞬でも私が『魔王』に見えたんだろう。


「残念ながら、私は『魔王』でもなければ、『勇者』でもないよ」


 それでようやく私のことを再認識したのか、悔しそうに顔を顰める。


「くっそがぁぁぁぁああああ!!!!」

『グゥオオオオオオオオ!!!!』


 ルトゥキウスが叫び、魔物が咆哮する。

 大きな爆発が起きるものの、アルストリアが前以まえもって結界を張っていたのか、被害はそんなに広がらず、爆風だけが通り抜けていく。


「――ッツ!!」

「――セナ!」


 で、私はというと、その爆風により、上空を吹き飛ばされていた。


「……あー、まさか一日に二度も吹き飛ばされることになろうとは」


 未だに身体にまとわりついたままの闇はそのままで、多分私の意志で自由に扱えるんだろうけど。


「やっぱ、体力魔力共に持っていかれるよなぁ」


 魔族の魔力量が多い理由が、よく分かった。

 確かに、これは多くないとヤバい。

 今思うと、魔王はよく『闇属性』魔法をポンポンと使えたものである。それだけ魔力が多かったと言うべきか。


「……あ、もう駄目だ」

「何が駄目なんだ?」


 意識が途切れるかと思っていたら、何やら返事があったのですが。

 え、そもそも何で居るの?

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